奴隷商店
貰ったものは、綺麗な紫色をしたスープだった。
おぞましい味で、食事中の出来事は覚えていない。
けれど、どうやら何とか食べきったみたいだ。何故だか腹はとても膨れた気がする。
何よりも────
【MP】8134/ 7601
──MPが大きく上限を突破した上に、上限自体も随分増えていた。
食事か……? 実際腹減りはしても痩せたりした気がしなかったが、実際MPが大きく絡んでいるんじゃないか?
”食べれば一節は保つ”なんて言っていたから目に見えるほどの効果を得たのかもしれない。
沢山あるMPによって、飢えることがなかったのではないか? と、僕の中では『MPは空腹と関係している』という説が浮上していた。
「で、飯食ったら、牢屋に纏めてポイですか分かります」
店のような建物の奥の方にある、鉄格子の中に十人くらい纏めて容れられました。
広くはないが狭くもない。
「まっ、どうせ売れないんだ。気楽に居ような?」
白髪の少女も同じ鉄格子にぶち込まれている。
「大体、奴隷なんて人気はないからねぇ……勝ってるならともかく、負けている時期なら、売れないのも仕方ないことさ」
肌が褐色の長身坊主頭の男がそう言って、地べたに座り込む。
こうやって気楽に喋っているのは、今現在、奴隷商が一人も僕らを見ていないからである。心なしか皆肩の力が抜けている。
「おいおい、まるで売られたいみたいな言い方じゃねえか、フフ」
褐色坊主の言葉を聞いた、色白で金色の短髪をした男がそんな事を言う。
「まぁな、フレディ。こんな所で商品として右へ左へしていたらいつか身が保たなくて死んじまうぜ」
「フフ。確かになケビン」
褐色の方がケビンで色白の方がフレディのようだ。
長い付き合いなのかな。
というか、奴隷で長い付き合いとか……ここは経営大丈夫なのか…?
勝手に想像を膨らまし、勝手に心配してしまうが、そもそも僕はその大丈夫なのか分からない所の商品であることは少し忘れていた。
「なぁ、新入り?」
ケビンが話しかけてくる。
「何ですか?」
「新入りはなにが出来る……?」
「何がって…何ですか?」
「魔法は使えるのかって話だ。」
魔法………そんなもの使い方すら分からないんですけど。
僕は出来るだけ申し訳無さそうに言っているように見えるように言った。
「使え…ない。」
しかし、質問してきた当のケビンはあっけらかんと笑い
「まあ良いか、間に合ってるしな。じゃ、これから宜しく頼むぞ……脱出の手伝いをな」
「はい! ……って、え?」
どう言うことかと周りを見ると、奴隷達は皆、苦笑いを浮かべていた。
─────つまり。
「奴隷の紋様を刻まれたら社会的に死ぬと思って良いけど奴隷商はまだ刻んでこない。奴隷として売られるまでは紋様を刻まれることはない、と。」
「それが嫌だから、俺達全員でここを脱出しちまおうって事よ。」
「まぁ、僕だって嫌だから脱出には同意します。けど……」
ケビンに説明を受けたのは、脱出する意志と理由だけだ。
というか奴隷の紋様がどうとか言われても見てないから分かんないし、それに他人事のように思ったことだが。
商品に反抗心抱かせて良いのか奴隷商。なんかの作戦?
「まあ良いです。きっと何もないでしょ」
「おうおう、納得してくれればいいんだよ。よろしくな? えっと…」
ケビンは手を差し出してくる。握手と言うことだろうか。
「アサギ……アサギだ。僕はアサギ」
何となく名字だけ名乗っておく。
僕は差し出された手と握手した。
「おう、よろしくなアサギ」
ケビンは笑顔でそう言った。
白髪の少女は心配そうにその光景を見ていた。
「そんな簡単に成功するのか……?」
しかし、誰一人その呟きに答えを返す者は居なかった。




