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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 一章 前編 異世界の洗礼
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異世界の時の流れ方

 あれから何度寝ただろうか………。


 六回。


 何時になったら馬車は揺れから解放してくれるのか。


 明日らしい。


 馬車の中を見ることが出来ないのは、誰かが《ブラインド》……つまるところの暗闇にする魔法、をかけ続けている事が原因らしい。解析といい、暗闇といい、地味だけれど魔法ってあるんだな…と少し感動。


 今暗闇が解けたら目が灼けるんじゃないか?


 そして、トイレなど案内してくれるはずもなく、そこいらにしたらしっぱなしだ。臭いったらありゃしない。


 悪臭にも慣れてしまったけれど。


 そりゃあ、多分既に6日も馬車の上に転がされたまま、放置プレイだ。


 そりゃあこんな環境、慣れる。それは隣の人が言っていた暗闇だけじゃない。というか慣れなければ発狂しそう。慣れてしまったから、本当に発狂するかは分からないけれど。


 空腹に関しては考えていない。そもそもこの世界では一切食事を摂っていないのだ、考えたら何かに負ける。


 そして、暇なとき暇つぶしに眺めていたステータス。


──【MP】7572/7569


 いや、どう見たっておかしいでしょう? 平均的なステータスは50って書いてあるんだけど? 単純に150倍はあるよ?


 何度見たところで、上限の数値が減ることはない。


 おかしな事に上限よりも減る所か偶に上回っているときがあるけれど、どう言うことだろう。


 右側が上限ではないとか?


 でも【魔力】が他よりもかなり少ない。


 見れば見るほどに、妙なバランスのステータス。


 運が高いのに、奴隷として出荷されているのはよく分からない……というかあの妖精たちの加護のせいの可能性が、ステータスを見て浮上したんだが、本当にそうだったら後であの森に火を放ってやろうか………。


 それと、状態に気になることが書いて──────


「ついたぞ!! 最前線の町〖イフェル〗だ! 野郎共、準備をしなさい!!」


 突然の大声に驚き飛び上がる。


───考えていた事? 忘れてしまった。


 毛達磨───誘拐されるとき僕を手招きしてきたデブのことだ。皆からそう呼ばれているので、僕も心の中でそう呼ぶことにした───が大きな声で叫びをあげる。


 毛達磨の部下たちは、慌ただしく騒ぎ出した。




 一度街の外で止まった馬車。一度綺麗にするために、商品(ぼくたち)を外へ転がして中を掃除しているようだ。


 というか、ぐるぐる巻きにされたとき、リュックも一緒に巻き込んでいたようだ。きっとリュックの中にはまだナイフがあるだろう。剥き出しの。


 そして、外に出された僕たちの瞳孔に光が取り込まれる。


────暗闇が解除されたのだ。


「めっ目がぁ…………あれ?」


 転がされているとはいえ、首を回せばそこそこの範囲を見ることは出来た。


 そして、目的地だろう最前線の町〖イフェル〗の一部が。


 ルーズリア領の蒼の端、隣の国と隣接する町の一部が。


 普通に見えた。眩しくもない。どうなってるの?






 遠目に見えるイフェルの町並みは仮設住宅みたいなものだろうか、テントみたいな布のような物が被せてある家々が見えた。


 リーダナブルとは違い道は土が剥きだしだ。最前線といったからには急に作ったのだろうか。


 出来てからどのくらいの町か分からないので推察でものを言うしかないけれど。


 ふと馬車を見ると内部の掃除が終わったようで、掃除をしていた彼らの手で僕たちの手に枷が填められる。


「逃げようとしたら気絶させるからな…道中みたいに苦しみたくなかったら、逃げようとなんか、するんじゃねえぞ」


 そう言って何かでぐるぐる巻きだった僕の拘束を解いた。僕を拘束していた何かを切るのではなく丁寧に解いて。


 扱い方から、それなりに大事な物のようだ。


───道中、何かあったっけ?


 そんな思考はさておき、服を着替えるように言ってくる。


 使い古されたボロ切れだったけどね。辛うじて袖がある感じの。


 まぁ、僕女じゃないんですけど……ボロ切れと一緒に渡された下着……女性物じゃねえか。


「………はぁ」


 奴隷商達は何か話し合っている。わざわざ話しかけに行くくらいなら、来ている物をさっさと脱ぎ捨てて、貰ったものを来た方が良い、かな。


 だってほら、気にはしてないけど、糞尿まみれだし。


 リュックをひとまず置いて、着替え始めた。






 着替えた。取り敢えず暇つぶしにステータスを覗く。


───【技能】《女装》が開放されました!!


「いらねぇよ………」


 僕は頭を抱えた。






「よう、馬車中での隣人さんよ?」


 白髪の少女が肩を組んできた。彼女は少しばかり痩せこけていた。……そりゃあ何日も食事をとってなければ当たり前だ。


 身長は、僕より少し小さいくらいか。


 その僕は男子にしては細身で、低めの身長なんだけど。


 改めて自分を見て、違和感を覚えたけれど、それは後で考えよう。


「う? 誰?」


「ひどいな…馬車ん中では隣だったろ?」


 そう言われてみれば、馬車の中にいたときの隣の人の声に酷似していた。


 本人なのだろう。


「あー……」


「にしても、おまえさん。かなり美人じゃねえか、驚いたぞ?」


「こんなナリでも、男なんですよ」


「………そうなのか、自信なくすわぁ。髪もあんな旅の後っつーのに、綺麗なままだし」


「そうですね……。そう言えばこの後どうなるんですか?」


 白髪の少女は少し黙り込む。


「え……何があるんですか?」


 黙り込んだ少女から不穏なものを感じ取った僕は少女の肩を掴み、もう一度聞いた。


 少女は如何にも深刻なことを言うように言ったのだ。


「………飯だ…」


「は?」


 思ったよりもいいことを言う少女。その事に拍子抜けして、間抜けな声を上げる。


「あの禍々しい…飯の時間だ………そうだ、そうだ……あんな物食べるくらいなら餓死してもいい……」


「………そんなに不味いの……?」


 肩を抱いて震える少女の表情が偽り、演技にはとうてい思えなくて、少し気が進まないながらも聞いた。


「あれはこの世の物とは思えねぇ、確かにあれを食べれば一節は持つけど………それでも食べたくはないね。」


「………いっせつ? ……って何?」


「そりゃ……ってああ。記憶喪失。」


 まぁ、異世界人なんて言えないだけで、記憶自体はあるんですけどね。


 つい、違うと言いたくなってしまう。


「って言うのは………1日がどういう定義か分かる………よな? 流石に」


「当たり前でしょ」


「その当たり前が欠如してるから聞いてるんだが……」


 呆れたように呟く。


「……まあいい。節って言うのは、九十一日を一纏めにした単位だ。四節で一年」


「四季みたいなもんかな……」


「シキ? なんだよそれ」


「何でもない。続けて」


「四節あると言ったけど、それぞれ〔蒼節(そうせつ)〕〔紅節(こうせつ)〕〔翠節(すいせつ)〕〔橙節(とうせつ)〕と。蒼翠紅橙の順で来るんだよ。ステータスで今何日かが確認できるぞ」


「そうなんだ……」


 指を長方形に動かしてステータス窓を開く。


「あ、ほんとだ」


 ステータス窓内の右上にしっかりと


【翠節:30日:11:39】


 時間もちゃんと表示されている。……時間は多分同じ…だよね?


────検証した結果、同じであった。


 一年の流れ …… 年始は蒼節から


 蒼節 → 翠節 → 紅節 → 橙節 → 蒼節

 91日  91日   91日   91日

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