空から始まる物語
────元の世界の皆様、元気でしょうか。そちらの世界では既に僕は死んでいることになっているでしょう。
僕の死体は丁重に葬ってくれると、有り難いです。
死んでいますが、僕は今、元気です。
噂の『異世界転生』ってやつでしょうか。お陰で僕は今生きてます。
でも…………でも───────
「何で空から落ちてるんッッッだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
──────僕は今絶体絶命のピンチに遭遇しています。
「何で!!? 空から落ちてる!?」
分かってる!! 喚いてもどうにもならないことくらい!!
でも!! こんな!!
「あのクソ天使! 異世界転生のスタート地点が空中とか滅多に聞かないんですけどぉぉぁぁぁ!!!」
こんな状況文句の一つでも言わないとやってられない!!
───まあ、スタートから空は探せばありそうだけどね!!
え、なんなの!? スタート数分で終わる異世界転生とか聞いたことがないよ!?
───そんな物が人に受け入れられるわけが無いからだと言うのは、彼にも分かっている。
「と! に! か! く! 地面に殺される前に何かしないと!!」
既に自由落下を開始して五秒程経っているのにも関わらず、地面とは遭遇していない。
「そうだ! 死ぬ前に買ったもの!!」
─────この異世界にはあなたの魂を送ります。最後に強くイメージが残った状態のあなたです。
そうやって、僕を送り出した天使は言ったのだから、今背負っているリュックの中にはきっと購入した物が入っているはずだ!!
そう思い、彼は背負っていたリュックを体の前面に回し、その中を見る。
「よし、これだ!!」
〔傘(安物)〕を広げた。
バリィッッ!!
「ああっ!!」
一瞬で骨がバキバキに折れた。重力加速度には勝てなかったよ………。
一瞬で一本の棒のようになってしまったスクラップを手放すと、曲がりなりにも鉄なのだが、天空へと吹き飛んでいく。
「…次だ次!!」
〔ビニール袋(サイズ:中)〕を広げようとした。
「嘘ぉ!!?」
広げる前に吹き飛んでいった。
「諦めるかよ……。」
リュックの中には、もう。
────一本のナイフしか、入っていなかった。
「これで………どうしろって言うんだぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
もう死ぬ。もう死んだ。諦めるしかない。
万策つきた。もし異世界だからって魔法があったとしても、使い方なんて分かりはしない。
生きることを諦めた途端に、走馬燈のように死ぬ前の記憶が。先程までの記憶が駆け巡る。
何でこんなことになったんだっけ───