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ねこの気持ち  作者: 辰野
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僕はご主人の……

 初めて出たお外は酷いものだった。


 上からお水が落ちてきて気持ちわるいし。

 ブオォォっていいながら走っていく塊もいるし。

 ごはんも前みたいなものは食べられない。

 寝るときだってものすごく寒いところで寝なくちゃいけない。



 それはもうおうちとは比べようがなかった。


 できることならおうちに帰りたい、あったかいお部屋でぬくぬくしたい。


 けどそれはもうできない。


 あのおうちに帰ったらご主人にまたイライラさせてしまう。

 ご主人のためにもあのおうちには帰らない。絶対に。



 僕がおうちを出てから3日。僕はなんとか生きている。


 おうちを出てからなにも食べていないのでお腹はペコペコ。

 犬に追いかけられたり仲間にも追い払われたりしてほとんど寝てない。

 体がいつもより重く感じる。


 考えが甘かったのだ。

 おうちの中しか知らない僕にとってお外で生きていけるはずもない。

 

 食べ物がどこにあるのか分からない。

 どれが食べられるものでどれが食べちゃいけないものなのか分からない。

 仲間の間でナワバリというものがあるらしいがそれも分からない。

 分からない分からない分からない。

 

 僕には分からないところだらけである。


 僕はあと1日もあれば死んでしまうだろう。

 それはお腹が空きすぎてなのか仲間にいじめられてなのか、黒い鳥に体を食べられてなのか分からない。

 僕が生きていくにはお外は辛すぎた。


 最近は生きるためよりも死ぬ場所を探しているような気もする。

 どうせ死ぬなら僕が好きなところで。

 そしてご主人に決して見つからない場所で。


 僕が死んだらご主人は悲しんでくれるだろうか。

 ご主人に嫌われてるからおうちを出てきたけど、できればご主人には悲しんで欲しいな。


 それなら僕が死んでもご主人の中で永遠に生きていけるから。


 僕が選んだ死に場所はご主人に初めて連れて行ってもらった広場だった。

 ご主人が「お前にも外を見せてあげないとな」と言って連れてきてもらったところだ。


 段々意識が遠くなってきてるときにここにたどり着けたのは運がよかった。

 ここからおうちがどれくらい離れてるのか分からないけど、ここならご主人との思い出の中で死ねる。


 ほら、どこか遠くで僕の名前を呼んでるご主人の声が聞こえる。

 ここなら寂しくないや。


 「おいミィ!ミィ!」


 なんだよ、せっかく気持ち良かったのに起こさないでくれよ。

 もう僕は眠いんだ、揺さぶらないでよ。


 あまりにも激しく揺さぶってくるので眠るにも眠れない。


 そしてこの鼻に入ってくる懐かしい匂いは…………ご主人の匂い!!


 思い瞼を開けてみると、そこにはものすごい量の涙を流しているご主人の姿があった。

 前より痩せているように見えるけどものすごく元気そうだ。


 「ごべんな、おべがめんどうみであべられなぐて(ごめんな、俺が面倒見てあげられなくて)」


 僕が勝手におうちを出て行ったばっかりにずっと探してくれてたんだ。

 ご主人の匂いがいつもよりも強い。

 他にもお外で嗅いだどろんこの匂いとか草の匂いとかいろんな匂いが服についてる。


 そこまでして僕を探し出してくれたんだ。


 言葉は通じないけれど、カイシャに行ってなかなか遊んでくれないけれど、


 ご主人は僕のご主人だ。

 そして僕は、ご主人のねこなんだ。


 「みゃーー、みゃーー(ありがとう、僕のご主人)」


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