表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

魔獣

 もう限界だ………と思った時にはもう、うつ伏せになるように倒れていた。

 攻撃を食らったわけではなく立っていられなかっただけだ。


 ドス、ドス、ドスと音が聞こえる。


 力が入らず顔を上げることができない。

 その音はだんだんと近づいてくる。

 もう目の前にいるだろうな。


「術式解放」


 この言葉とともに僕の体を暖かい何かに包まれるような気がした。不思議と腕の痛みが引き身体が軽くなる。すぐにでも走っても問題ないほどだ。


 誰か助けてくれたのか?ならお礼を言わないと。僕は起き上がり顔を上げ前方を確認する。

しかし、息を荒らげ今にも死にそうなほどの重症を負っているあの生物が立っていた。


 僕は全力で後ろに下がる。


 死んだんじゃなかったのか。ならなんで僕は助かっているんだ?助けてくれた人は?

 すごく混乱していた。


 それを見透かしているかのような女の人の笑い声が聞こえあの生物が前のめりに倒れる。


 生物はすぐに光に包まれ地面に吸収され、すぐ後ろから透き通るような白い肌に緋色の長い髪で無邪気な笑顔をした少女が姿を現した。


「あはははは、面白い、君ほんと面白いよ。見てて正解だった」


 彼女は楽しそうに僕を見ている。悪い人ではなさそうだ。周りには他に誰もいなかったのできっと少女が助けてくれたのだろう。


「助けてもらいありがとうございます。僕は倉持翔太です」

「いいよー。私はビヤネート・エルネルだよ。エルネって呼んでね」

「あっ、はい」


 変わった人だな。さっきも僕を見ながら笑ってたし。


「ごめんね。さっきは驚かすようなことをして」

「驚かす?」

「ふふ、もしかして分かりにくかったかな?ほら、さっきのゴブリンのことだよ。あえて半殺しにして君を驚かそうと思ったんだよ」

 

 ああ、あれってゴブリンって言うんだ。それより驚かすって……。まぁ、死ぬことはなかったし。許そう。


「いいですよ。かなり怖かったですけど…」

「良かった。それにしてもすごいね。よくそんな装備でこんなとこまで来ようと思ったね。確かにあの武器ならここでもぎりぎり通用はするけど………君のアビリティじゃ厳しいかな」


 エルネは僕をじっと見つめた後そう言った。武器がぎりぎりって案内人、微力過ぎるよ。そりよりもっと安全なところに飛ばして欲しかった。


「アビリティって何ですか?」

「えーっと。どういうこと?扉に入る前に説明があったよね」


 入る前のことか。誰もいなかったな、居てもここに落とした奴しかいなかった。そんな奴が教えてくれるはずもない。なら待合室でのあれのことか。


「説明ですか。全くされなかったです。案内人って言うのに聞いても何も答えてくれませんでした…」

「それはそうだよ。だってあれは術式だよ。組込まれたことしか答えられないよ。扉の前に誰かいなかった?私の場合はその人が説明してくれたけど」


 当たり前のように言われても僕は知らないからね。でも誰のことを言ってるんだろ。そしたら、ここに落とした奴のことか?


「誰もいませんでした。ただ扉が開いた後、後ろに人が居てその人にここに突き落とされて……」

「――ん?よくわからないな。どうやって入ってきたのか詳しく教えてくれる?」


 もっと具体的に話したほうが分かってもらえるかも。


「いいですよ」


 扉に入ってしまった経緯を話す。


「なるほど、黒いマントを着た人が気になるね。でもなんで突き落とすようなことしたんだろ。触れた時点で強制的にここに飛ばされるはずなのにね」


 そっか、どのみちここに来る羽目になってたのか。


「そ、そうなんですか……帰る方法はありますか?」

「ここを出ないと帰れないね。でもね、ひとつ分かったよ…………君は勇者だ!」

「えっ」

「いやーびっくりだよ、まだ勇者召喚とかしてたんだ」


「ゆ、勇者ってどういうことですか?」


 いきなり勇者だって言われても何が何だかわからない。話せば話すほどわからないことが増えてる気がする。



「説明するのは面倒だなー。う――ん、何も知ら無いみたいだから図書館に案内するよ」


 面倒だったか…でも図書館ってとこに案内してもらえるみたいだし良かった。


「助かります。」


「いいよー。――――――――はぁ、もう消えちゃったか」


 辺りをきょろきょろと見渡し残念そうに溜息をついてそう言った。


「どうしたんですか?」

「ん?ああ、アイテムが消えちゃったんだよ。一定時間放置されてると自然と消えてなくなるの。少し話しすぎたみたい」


「すいません。僕がいろいろと聞いてしまったせいで…」

「気にしないで、そんなにいいアイテムではなさそうだったし」


 気を遣わせてしまったかな。


「あっ、そうだ。別に敬語とか使わなくていいよ。私も使ってないし」

「分かった。で、今からは図書館に案内してくれるんだよね?」

「うん、そうだね。行ながらでもアビリティのことでも話してあげる」


 良かった。教えてもらえるのか。


「ありがと。でも何でアビリティのことだけなの?」

「それはね。勇者の説明は長ったらしすぎるからだよ」

 

 エルネはそういった後満面の笑みをして見せる。


「ああ、そうなのか」


 そんな笑顔をされても勇者のことを知らない僕にとってはそう返すしかない。


「うん。なら行こうか」


 そういいながら、僕の手を取り笑顔でこちらを見てきたが。さっきとは違いニヤニヤとしていて何かを企んでいる様な感じだった。


 僕は手を取られ後ろを歩きながら茂みの中を進んでいくがさっきよりも獣のような声が聞こえる気がする。


しばらくして、エルネが話し出す。


「アビリティの事なんだけどね、要はその人個人の能力なんだ。君は来たばかりだから今までの筋力とか体力のままなんだよね。でもここに入った後、魔獣とかを倒すとポイントが貰えるんだ」


 何だろうそれ、僕もさっき魔獣を倒したし貰えてるのかな?


「うん。」

「でね、それを強化したいところに振って自分を強くすることの出来るシステムなんだ」

「なら僕も魔獣を倒したし強化することが出来るってこと?」

「ううん。まだ出来ないよ…………だからここに連れてきたの」

「えっ………、ちょっと待って」


 僕の言葉も虚しく、握っていた手を前に突き出し放り投げられコケてしまう。


「イテテ、いきなり何するんだよ!」


 僕は強めの口調で言ってはみたが何食わぬ顔で前を指さしている。それに従い前を見ると異常なほど目の大きい猿がいた。瞳は緑で血走っており、鋭い牙と爪。毛並みは茶色で地球と変わらなかった。


「ん?」

「ウキャ」

 

 僕と同様に猿も疑問に思ったようだ。猿はしばらく僕を見た後急に。


「ウキャ、ウキャキャキャ、ウキャ――」

  

 と叫び出した。僕はとっさにエルネを見る。


「あーあー、仲間呼ばれちゃたね。私面倒だから戦わないよー」


 とだけ言い近くの木幹に飛び乗ってしまうがその高さは4~5mある。その化物じみた脚力に驚いてしまうが今はそれどころではない。いつの間にか猿が20匹ほどに増えていた。

 

 また囲まれてしまった。勝てるのかなぁ。でも何かあったら助けてくれるだろう。


「はぁ――」

「頑張れー。そいつらすっごく弱いから颯太でも勝てるよ。応援しているね」


 僕の心情を悟ったのか応援してくれるそうだ。だが、弱いと言われてもな。

 あんまり当てにならない。

 まぁ、あのゴブリンと同じくらいの強さだと思っていよう。

 それなら勝てるはず。合体さえしなければだけど。


「よし、いくか―――」


 剣を握りしめ目の前にいた猿に向かって走り出す。猿はただ威嚇するだけで何もしてこない。もしかして本当に弱いのか。僕はそのまま猿に向かって剣を振り下ろす。


 ボト


 猿の首が落ちた。これならいける。

そう思い残りすべての猿を切り殺す。ただ、猿は終始威嚇するだけでまったく抵抗すらしなかった。


「終わったね。」


 エルネが降りてくる。


「この猿なんで抵抗してこなかったの?」


「たぶん、その剣が強いから怖かったんだと思う。この猿は相手のアビリティを見て自分たちより弱い生き物にしか攻撃しないんだ。だけど、弱いと思っていた颯太が自分たちよりも強い剣で攻撃しようとしてきたから威嚇しか出来なかったんじゃない?」


「ん?」

 

 どうしよう何か適当なこと言われている気がする。どのみち図書館に行ったらわかるか。


「まぁ、この猿限定なんだけどね。そんなことより、早くアイテム拾おう。また消えちゃうよ」

「うん」


 収集できたのは20本の骨と15個の布で出来た袋後、茶色い毛皮が10枚、3つの赤い結晶だった。


「おお、これだよこれ」


 と言い赤い結晶を手に取っている。


「それがどうしたの?」

「やってみたほうが早いから手出して」

「分かった」


 すると、手の上に結晶が置かれる。見た目よりも軽く、ひんやりとしていて気持ち良かった。


「次はどうすればいいの?」

「強く握って術式解放って言ってみて」


 結晶を強く握りしめる。


「術式解放」


 と呟いた。すると手の隙間から光があふれだし程なくしてその光は消える。

何だったんだろう。


「うん。終わったね。私のこと見てみて」


 言われた通り見てみると。頭の中に情報が流れてくる。

それにはこう書かれてあった。




ビヤネート・エルネル    20


体力  4520

筋力  6080

速さ  3050

魔力  4230

器用   1900

運   600



「これ何?」

 

 何だろうこれ、大体の表示は分かる。でも器用って何?それに魔力があるってことは、魔法が使えるのか?


「う――ん、これは私の強さみたいなものだね。筋力値が3080って書いてあると思うけどこの場合攻撃力が3080ってこと。こんな感じで大体は言葉通りの意味だよ。一回自分の手でも見てみて自分の強さが分かるから」


 言われて通りに手を見る。



倉持颯太    17


体力    200

筋力    150+400

速さ    100

魔力    200

器用    50

運     20


魔法    空気

スキル   観察

残りポイント   1800

装備   青銅の剣(筋力補正として+400)

持ち物   なし


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ