扉
電話だ。
制服のポケットに入れていた携帯は、マナーモードにしていたため音は鳴ってはいないが、一定のリズムで振動しているのですぐに五十嵐翔太からだとわかった。
僕は、携帯を取り出し画面の赤く染められた長方形の中に白字で<通話>と書かれた場所に触れる。
「さっき陽仁を見つけた」
「えっ?」
その一言に驚いてしまう。一瞬理解できなかった。だが、そんな僕を置いて翔太は続ける。
「すぐに追いかけたんだけど見失ってしまった。すまん。颯太も一緒にさがしてくれ」
この一言により本当に陽仁のことを言っているのだとわかった。
「ああ、すぐに行く。場所はどこだ?」
「俺の家は分かるよな。その近くのコンビニだ」
「わかった」
とだけ言い残し電話を切った。
話を終えた後僕はコンビニ向かって走り出していた。
遅すぎるだろ…もっと早く帰って来いよ。なんで半年近く帰らなかったんだ。僕たちに会いたくなかったからか?それとも、学校が嫌だったのか?
何かあったらすぐに相談に来いって言ってただろ。いや、もしかしたらあの時僕たちに相談に来てたのかもしれない…。僕がちゃんと言葉を選べていたら。陽仁があの場から立ち去らず、今こんな結果にはなってなかったはずだ。
だけど、まだやり直せるはずだ。ちゃんと正直に話して謝ろう……。
そんな決意を固めて間もなくして翔太の言っていたコンビニに近づいてきた。一度連絡を入れようと思い立ち止まり携帯を取り出す。
だが、コール音は周りの騒音交じりに鳴り続けるだけで一向に鳴りやむ様子はなかった。
しかたない。まあ、折り返しかけてくるだろう。そう思い一人でさがし始める。
気づくと、空は茜色に染め上げられスーツを着た人々は足早にどこかを目指していた。
どのくらい走りまわっていたんだろう。携帯を取り出し時間を確認する。6:32と右上に表示されており、連絡が来てから1時間半近くも経っていた。
思っていたより時間が経っていた、もし陽仁が徒歩以外で移動しているのだとしたらもうこの辺りにはいないだろう。
でも、まだ可能性はあると思いつつ目の前まで来ていた交差点を左に曲がる。
するとすぐに、こんな街中にはそぐわないほどとても大きく、古びた石で造られた西洋風の扉が目に入った。
「なにこれ……」
不意に声がもれてしまう。それは歩道を塞ぐように設置されていた。
近づくにつれ、全貌が明らかになる。ただただ異質だとしか言うようにない。
壁一面におそらく人間であろう生物やこの地球上では誰一人として知るはずのないであろう奇怪な生物が描かれさらに、その絵を説明しているようなものと、扉中央に5行ほど見たことのない文字が書かれていた。
描かれているものを眺めていると急に目の前から僕の背丈より大きく黒い物体が出てくる。
「――――っ」
驚きのあまり尻餅をついてしまう。
しかし、よく見るとスーツ姿のサラリーマンであった。だが、サラリーマンは僕の存在に気づきもせず、まるで幽霊のように僕を透き通るように立ち去って行った。
とっさに体に触るが何の変哲もない。おかしい…。確かに扉と僕を通り抜けたはずだ。
なんでだ、扉に何か仕掛けがあるのか?と思い僕はそれに触れる。
するとアスファルトと石が削れるような音とともに、手に押し返されるような感覚が伝わってくる。そのまま一定のスピードを保ちつつ外側に開いていき。やがて左右の扉が平行になる位置で止まる。
扉があった場所はまるでその部分だけが切り取られたように真っ暗で何も見えなくなっていた。
どうなっているんだろう。少しだけ近づき覗きこもうとする。しかし、底すらも見えない。
「お―――い」
後ろから声が聞こえる。聞き覚えのある声のような気がした。その声につられ後ろを振り向いた直後。
「――――っ」
僕は、黒くボロボロなフード付きのマントを羽織った人物に胸を押し飛ばされる。その人の顔はフードを深く被っていたため見えなかったが、左腕には大きな傷跡が入っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ――――――――――――」
真っ暗闇に突き飛ばされる。
「やばい、しぬ、しぬ、しぬ、しぬ、しぬ、いやダメだろ。何でこんなところに突き飛ばすんだよ。僕が何か悪いことでもしたのか。何もしてないだろ。ってかあいつだよ。ありえない、なんでこんなところで死ななきゃいけないんだよ。下も見えないし、もういやだ………死にたくない」
叫んでるうちに周りが明るくなってきた。底が近いのかもしれない。上から覗いたときには光すら見なかったはずなのになんでだろ。
考えてみるがわかるはずがない。
まあ、ここで僕の人生も終りだし。考えるのをやめた。
「はぁ――」
溜息が出る。そろそろ覚悟を決めよう。
「短い人生だった。今までみんな今までありがと、いろいろと迷惑かけてごめん。翔太見つけ……」
走馬灯のようなものが見える。思っていることを言葉に出してしまう。だが、すべてを言い終える前に落下が止まった。
「えっ……助かったのか?」
この言葉に呼応するかのように、今度はゆっくりと動き出し仰向けに寝るように地面に着いた。
小説を書くのは初めてなのでいろいろと未熟な点はあると思います。
なので出来るだけ多くの評価をしてもらえたら嬉しいです!