2-3. 邂逅(1)
列車での移動が始まり既に幾日かが経過したが、彼女は無言のままだった。
俺の言葉に素直に従うが、その一挙一動を見る限り、どうやら俺は彼女に警戒されているようだった。
いつものように背中の傷を治療しているある日、彼女が珍しく口を開いた。
「私をどうするんですか」
俺が質問の真意が分からず黙っていると、彼女は再び問いかけてきた。
「何のために私を助けたの?」
俺は拙い言葉で彼女に伝えた。
自分が苦しんでいた事
彼女の一言に救われた事
彼女を助けたいと心から感じた事
すると、彼女は驚いたように問い直す。
「それだけの事で私を助けたの?」
俺としてはこの言葉は心外だった。〈それだけの事〉だなんて……加害者を労る彼女の優しさを〈それだけの事〉の一言で済ませるなんて、許せなかった。
それからは暫く口論となった。
俺なんかを心配するなんて、君は本当にお人好し過ぎる。
私なんかを助けるためにこんな大それた事をする人に言われたくは無いわ。
私なんかなんて、君はどれだけ俺が救われたか分かっていない。
それは貴方も同じじゃない。
……
……
ひとしきり言い合いして双方が疲れきった後、俺は彼女の背中の傷に触れた。




