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3-10. 抱擁
これで四度目……いや違うな。
彼から抱き締めてくれたのは、これが始めてだ。
彼の温もりを心地よく感じながら、私も彼を抱き締め返す。
涙が出るほどに嬉しい。
だけど
涙が出るほど悲しい。
やっぱり彼を受け入れるわけにはいかない。
これ以上、彼の辛い表情を見たくないから……見たくないからこそ、離れなければならないのだ。
私にはもう時間が無いのだから。
私はもう―――だから。
神様とは残酷だ。
どうしてこんな出会いだったんだろう。
どうしてこんな時に……
喉から鉄の味が迫り上がってくる。
それは私の中より溢れ出て
私の頭を真紅に染め上げ
私の意識を深い闇に連れていった。




