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3-8. 本当の気持ち
胸が痛い。
息が苦しい。
足が砕けそうだ。
その手紙を握り締め、目覚めた始めた街中を俺はひたすら走っていた。
***
道行く人々が奇異の眼差しで男を見つめる。
髪の毛はぐしゃぐしゃで、シャツの裾ははみ出し、足には何も履かず、ひたすら街を駆けていく男。
その表情は必死で、近寄りがたい。
男は露店の準備をしていた女性にぶつかるが、そのまま足を止めることも無く駆けていく。
露天商は怒鳴ることも忘れ、呆気にとられて男の後ろ姿を見送った。
***
彼女が未だホームに残っている可能性は有り得ないだろう。
そう考えながらも、足は止まろうとしなかった。
駅舎が見えてきたとき、確かに心の声が聞こえた。
一つの心は囁く「ここで別れて正解なのだ」と。
一つの心は囁く「彼女を追い掛けろ」と。
俺は叫んだ「俺を許してくれ……気の側にいることを許してくれ!」と。
俺は駅員の制止を振り切り、ホームへと駆け上がる。
そこには、困ったように微笑む彼女がいた。




