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◆『ゲーム』と苺のショートケーキ

◆『ゲーム』と苺のショートケーキ


 ----------俺がソレと出会ったのは、かれこれ1年前。


 旬は、ヘッドマウントディスプレイを頭につけた。

 そして、腕にはアームボードと呼ばれる、腕に取り付けるキーボード。

 これから旬は、ネットに接続して、その中を駆けるつもりだ。

 非合法な手続きで。


 この時代、ネットは飛躍的に進歩していた。

 食べること。着ること。体験すること。

 全てがこのネットで行なえた。

 もし、できないといえば……死ぬことだろうか。

 だが、それは、オープンネット、つまり正合法で、政府が用意したネットダイブ用ポッドで接続されているときだけの保障であった。

 ポッドは生を保証する代わりに、多大な時間を必要とした。

 食べることなど、ヒトの五感を全てデジタルに変換し、体験できるようにするには、肥大化した回線が必要だった。

 ネットに入ることは、短くでも半日を潰すことになる。

 それならばと、五感の一部だけをネットに接続し、必要なものだけを手に入れる者が現われた。

 それが、ハッカー。

 彼らは自分の愛用機(主にパソコンや機能充実したヘッドマウントディスプレイ等)でネットにダイブし、アンダーネット……オープンネットの裏側。空いている回線を縫って移動する。そのため、正式な手続きを得ていない彼らのダイブは、危険と隣りあわせだ。

 ネット中に体に異常が出れば、そこで終わり。

 またネットでセキュリティプログラムにやられても、そこで終わり。


 ハッカーはそんな死と隣り合わせのダイブで、有用なデータなどを手に入れ、富を得ていた。もちろん、富以外のものを欲する者もいる。


 旬もその一人だった。

 オープンネットに降り立ち、不具合がないか確かめる。

「大丈夫、だな……」

 ラボにいる際にダイブの手ほどきは受けていたが、こうしてハッカーの真似事をするのは初めてだった。

 旬は次にシフトプログラムを起動させる。

 一瞬にして、あれだけ煌びやかなリアルな町並みが、あっという間に、格子状のラインだけの世界に変わる。

 あるハッカーは、こういう。これが、ネット本来の世界だと。

 ネット内は、0と1の羅列で構成されている。

 それに様々な加工を加えて、より現実にリアルな仮想空間を作り上げているのだ。


 旬はそんな世界に、あまり興味はない。

 むしろ、用がなければ、入りたがらない場所だと言ってもいい。

 それなのに、この地にやってきたのは。

「苺の、ショートケーキ……ラブリースイートの、SPチケット……」

 思わず呟いて、にんまりしてしまう。

 いや、今はにんまりしているときではない。首を振って、頬を叩いて目をシャッキリさせる。

 大好きなショートケーキ、しかも、有名店のスペシャルチケットのショートケーキを出されたからには……。

「やるしかないよな!」

 ぐっと右手を握って、空に掲げる。

 太陽のない、ラインだらけの天井へ。



「シフトプログラムB、イグニッション!」

 隣のラインに移動。なんとか、数個のガードプログラムを回避。

 けれど、まだ旬を追うプログラムは、いくつも存在する。

「サーチ、イグニッション……」

 走りながら、索敵。瞳に写る様々なウインドウから、敵のデータが流れていく。

 0と1の羅列が一気に流れ込む。

 それを、脳内で記号に、言葉にシフトしていく。

「あと、5つ」

 めんどくさ。

 思わず、心の中で呟く。本当はそれも自殺行為なんだが、それでも旬は心の中で呟いた。そうしなくては、やってられない。

 だが、その先には、あのショートケーキが待っている。

 気持ちを奮い立たせて、プログラムを確認した。

 よし、戦える。

「シフトプログラムS、イグニッション!!」

 一気に5つのラインを無作為に、ランダムに転移していく。これで一気に4つ、振るい落とした。

 残るは一つ。

「よく付いてこられるね」

 思わず笑みが零れる。これ以上は転移はできない。

 ここでヤツを『焼かなくては』先へは進めない。戻れない。

 ヴンッ。

 左肩に赤いクリスタルが表れる。旬はそれに触れて、歌うように告げた。

「愛してるよ、フェニ。起きて」

 クリスタルが旬の声に震えて、展開し始める。

 それと同時に旬も最強の『盾』を用意した。フェニが完全に目覚めるまで、数秒かかる。それまでの間、ガードしなくてはならない。

 自分が『焼かれないように』。

「ぴぴぴぴ、ぴぴ」

 ボールのような破壊プログラムは、旬を捉えた。

 瞬時に旬の周りに青いヴェールが展開。防御!

 破壊プログラムから発射されたレーザーを凌いだ。旬は苦い顔を浮かべる。同時に頬から、つうっと赤い血が流れた。

 全て防いだつもりが、『継ぎ目』を見抜いて、旬を傷つけた。

 時間は、ない。

「フェニ、まだか!!」

 叫ぶ旬に。

『はあい、マスター♪』

 ふわりと炎と共に現れたのは、紅に染まる美しい鳥。

『お待たせ、あれを焼けばいいのかしら?』

「分かってるなら、今すぐ焼け!」

『あーんもう、つれないわね。でも……』

 ふわりと飛び上がり、更なる炎を身に纏う。

『私の敵じゃ、ないわね』

 赤い閃光が球型プログラムを貫いて。

『ラブリス・ヒートブレイド』

 フェニは続ける。

『これを受けて生きてるモノはいないわ。私とマスターの愛の結晶の前に、生きていられるのは私達だけ』

 完全に消滅したのを確認した旬とフェニは、そのまま衛星ラインを経由して、帰還することができたのであった。


「で、俺が取ってきたのは」

「ふおおおおお!! サンキュー! すげーすげーよ!! まだ発売されていない最新刊コミックスのデータがゲットできたぜ!! すげー展開だ!!」

 オタクな友人に頼まれて、取ってきたのは来月発売するコミックスのデータであった。

 本来ならばこんなこと、請合わないのだが。

「で、報酬は?」

「あ、そうだったな! ほら、転送しといたぜ! SPチケット! これさえあれば、すぐにお目当てのケーキが食べれ……旬!?」

「アディオス」

 背中を向けて手を振る旬は、さっさとオタク友人の部屋を後にした。

 目指すはあの……噂のケーキ。

 想像しただけで、思わず顔が綻ぶ。

 その足で、ラブリースイートの自動ドアをくぐる。

 店内は女性ばかりだが、このときばかりは、今の自分の容姿に感謝する。

 少し女性っぽい顔が、店内の女性達を同属と認識させてくれる。

 だから、スマートに入れるのだ。気兼ねなく。

 旬は持っているスマートフォンに表示されたチケットを見せて、席に着いた。

 いよいよ、そのときが……来たっ!!

「お待たせしました」

 ことんと置かれた可愛らしい苺のショートケーキ。

「ふおおおお!!!」

 思わず、あのオタク友人と同じ声を出してしまったが、まあいい。

 それくらい、見事ないろんな意味でパーフェクトなケーキだった。

 だから、ラブリースイートのスイーツは、やめられないのだ。

 銀のスプーンを手にして、さっそく、そのスイーツの攻略を始めようとしたときであった。

「あれ? 君だったの?」

「んぐっ!!」

 喉を詰まらせ、死にそうになる。それを突然現われたリュートの持つ水が救ってくれた。

「な、なんで、白眼鏡……いや、リュート先生が?」

 ちなみに白眼鏡というのは、リュートの眼鏡と白衣をかけたあだ名だ。

「それはこっちの台詞だよ。まさか、僕のプログラムを焼いたのが君だったとは」

「へ?」

「気づかなかったのかい?」

 この日、リュートが有能なハッカーなことが分かり。

 悲しいことに美味しいはずのケーキの味は、その衝撃の事実により、遥か遠く旬が掴める距離よりも遠くへぶっ飛んでしまったのであった。

 旬の初めてのハッキング……いや、『ゲーム』はこうして、幕を下ろしたのである。


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