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◆懐かしい香りともう一人の訪問者

 暗い部屋の中、コンピューターだけが、光を放っている。

 その光に照らされ、一人の青年がヘッドマウントディスプレイを付けながら、何かを探していた。と、その手が止まる。

「何でこんなところに……」

 とたんに、青年の口元が緩む。

「けれど、見つけたよ……旬」

 ヘッドマウントディスプレイに付けられた、スイッチを押して、通信を開始した。

「姫様、見つけましたよ……彼です」

 と。




◆懐かしい香りともう一人の訪問者

 それは、懐かしい懐かしい夢だった。

 俺はまだ、僕と言っていた頃の話。


「まあ、そこまで出来るの? 私はサポートプログラムがないと操作できないというのに」

 長い髪を片手で押さえながら、エメラルド色した瞳を僕に向ける。

 カリス姉さん。血のつながりは無く、そう呼ぶようにと姉さんから言われてるから、そう呼んでいた。

「よくやった、旬!!」

 母さんは、嬉しそうに僕を抱きしめると、ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回すように撫でまわした。髪の毛がぐしゃぐしゃになるから、そんな撫で方止めてほしいと思うんだけど、キライにはなれないのは、やっぱり相手が母さんだからか。

 結果を覗き込みながら、銀髪の父さんも微笑む。

「これなら、万が一のときは、旬に頼めるね」

 父さんは乱れた髪を直すように、頭を撫でてくれた。

 このときが、一番、幸せだった。

 母さんがいて、父さんがいて、そして、優しい姉さんがいて。

「んっ。けど、それができるからって、何でもできるって思わないで欲しいね」

 僕に似た、兄さん。

 ただ、僕と違うのは、その真紅に染まる髪と、燃えるような赤い瞳だろう。

 それも、カラーコンタクトやウィッグで何とでもなる。

「咲、また変なことしただろ?」

「何を?」

 しらばっくれるつもりか。

 僕は両親のいる前で、暴く。

「僕の恋人を、僕の顔で泣かしただろう!!」

「それ、本当にオレ? もう一人のお前がやったんでしょ?」

 怖い怖ーいお前が、ね……。

 呟くように、けれど僕には聞こえるように。

「貴様っ!!」

「はいはい、喧嘩はやめやめ!! よく見な、カリスも驚いてる」

「「………」」

 母さんの右手には、咲、左手には僕。その顔を無理やり、カリス姉さんに向ける。

「……ごめんなさい」

 先に謝るのは、いつも僕だった。

「よしよし、旬はえらいね。で、咲は?」

「……オレは、悪くないっ」

「あ、こらっ!!」

 立ち去る咲。残されたのは、僕と母さんと父さんとカリス姉さん。

 ふわりと、また母さんに抱かれる。

「もう少し、優しい心を持ってもらえると嬉しいんだけどね?」

 懐かしい香りがした。母さんのいつも付けている、優しい香水の香りが……。



 はっと、目が覚めると、そこは知らない場所だった。

「えっ!?」

 思わず起き上がり、そして、自分がまだアカデミーの制服を着ていることに気づかされる。

「あ、あれ……」

 驚きつつも、頭を整理する。ああと、思い出した。

「さっきの、夢……」

 ゆっくりとけれど、確実に現実に引き戻された。

 アカデミーで殺されかけたこと。小雪の案内でエルシィの家に厄介になってること。

「でもなんで、あんな夢……」

 思い出した。

 初めてエルシィと出会ったとき。

 胸で抱きとめられたとき。

 そのとき嗅いだ、あの香り……。

「母さんと、同じ……?」

 そんなことはないと、首を振ると、飲み物を飲むために旬は、簡易ベッドから起き上がり、キッチンへと向かったのであった。


 そこには既に朝食の準備を始めている二人がいた。

「おはようございます、旬さん。調子はいかがですか?」

 小雪に声をかけられて、俺はちょっと嬉しくなる。

「おはよう、小雪さん。えっとエルシィさんも」

「ああ、おはよう」

 エルシィは、慣れた手つきでベーコンエッグを作っていた。ご丁寧に三人分。どうやら、俺の分まで作ってくれたようだ。

 席について、小雪に微笑みかける。

「調子はいいよ。慣れないベッドで寝たから、ちょっとだけ体が痛いけど」

「あのベッド、固いからね。けど、慣れれば体に良いんだからね、あのベッド」

 そういって、エルシィは出来立てのベーコンエッグをテーブルに置いた。

「さあ、メンツも揃ったことだし、飯にしよう! サバイバルの鉄則は、飯を欠かさずにちゃんと食べることだからね!」

 ベーコンエッグに焼いたトースト、それに暖かいミルク。

 エルシィに感謝しながら、旬はそれらを完食したのだった。


「さて、一息ついたんだが……」

 食後のコーヒーもいただきつつ、エルシィが口を開く。

「考えたんだけど、やっぱり旬は暫く、ここにいた方がいい。それも2週間とか3週間くらい」

「そんなに、ですか?」

 制服を着替えたいのだけれど……そうも言ってられないってことか?

「着替えたいのはやまやまだけどね、あんたのその服、意外と頑丈に作られてんだよ」

「えっ?」

 エルシィの言葉に思わず声を上げてしまう。

「なんだ、知らなかったのか? アカデミーの制服は、万が一に備えて、一番丈夫な素材で出来ているんだ。未来を担う子供の命を守るためにね」

「……知らなかった……」

 まじまじと自分の制服を見つめてしまう。

 普段何気なく着ていた、この制服に、そんな効果があったとは、知らなかった。

「それなら、そのまま着ていた方が安全ですね」

「そういうこと」

 小雪の言葉にエルシィが頷く。

 と、和やかな時を過ごしていた瞬間。


 ドドーーーンっ!!


 そんな激しい物音と共に、ぐらぐらと建物が揺れた。

「な、なんだ!?」

「エルシィ、外を!!」

 小雪が指差した窓の先、そこには、エアバイクに乗った……。

「仮面の、男!?」

 その肩には、ロケットランチャーが担がれていた。

「ごきげんよう、旬君。君を迎えに来たよ」

 無礼な相手に俺は、窓を開けて叫んだ。

「何が迎えに来た、だっ!! それを撃ったら、この建物が壊れるだろ!?」

「これでも丁寧にご挨拶したつもりだったんだけどね……」

「何が丁寧だ!! 呼び鈴でも鳴らせばよかっただろうが!!」

 そう旬が叫ぶと。

「僕は鳴らしたよ。1時間もずっと」

 その真面目な返答に思わず。

 ------良い人かもしれない。

 その場にいた三人が、同じことを思った。

 が、すぐに気づいたのは、旬。

「だからといって、やっぱ、それを撃ち込んで良い理由になるかっ!!」

「まあ、旬君とこうして話ができたんだ。さあ、僕と共に行こう。姫達が待つ、『楽園』へ」

 仮面の男は、満面の笑みで、手を差し出してきた。

「誰が、お前と行くもんか!!」

 その答えと共に、小雪も動き出す。

 腰に付けていたバックパックから、伸縮式警棒を取り出し、それを一瞬で伸ばすと、ブーツを踵を鳴らした。

『反重力システム作動』

 あの声が聞こえて。

「旬さんを渡しはしません!」

 小雪は開いた窓から、飛び上がり、仮面の男へと警棒を振るう。

「おっと、物騒なお嬢さんだ」

 エアバイクを巧みに操作しながら、その攻撃を避ける仮面の男。

「旬、今だ!! 逃げるぞ!!」

「で、でも、小雪さんがっ」

 エルシィに手を引かれ、俺は小雪の方を見た。けれど、エルシィの手の方が強くて、抗えることなく。

「小雪のことは心配ない。あの子はあの子で何とかやっていける。それにあたしの携帯を渡してる、だから、大丈夫だ」

 そのまま地下のガレージへと進み、奥に止められたバイクにエンジンを吹かすと、旬にヘルメットを投げ渡す。

「早く乗って! あんたも死にたくはないだろ?」

 しばらくヘルメットを見ていたが、観念したように、エルシィの後ろに座って、ヘルメットを被った。

「しっかり捕まってな。行くよ!!」

 ガレージの扉を開けて、エルシィは飛び出すようにバイクを走らせた。

 旬は、まだ後ろで仮面の男と戦っている小雪を見て、胸が締め付けられるような、悔しい想いに捕らわれていた。


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