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閉じた環  作者: そら
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第7話  雉も鳴かずば

ぱたっとあの男がやってこなくなった。


ラッキー私。


8月に入り、パートのおばさま方のお休みが多くなり、もうバイト三昧にあけくれている。


中旬すぎれば、私もバイトを休んで、課題をうつさせてもらったり、友人たちとの旅行も待っている。


がんばれ!今稼がないでいつ稼ぐ!


例の女子大生と店長は何やらもめたらしく、オイタのつけは、女子大生が運営本部に直訴であっけなく決着をみた。


そりゃあ、イメージあるものね、ファミレス店として。


めでたく店長は左遷され、研修という名目だけど、実質左遷。


そして女子大生も解雇された。


バカだよね、くだんの女子大生、こういう系列に就職はもはや絶望だよ。


結構ネットワーク凄いからさ。


おまけに奥さんにも慰謝料2人して請求されたらしい。


ヨッコちゃん、どこでそれを聞いた?私にはそれを知ってるあんたが不思議でならない。


バカ騒ぎして、自分を裏切った店長が許せないって、自分の立ち位置わかってないから、こうなるんだよ。



新しい店長候補は若いけど、やる気満々な女性。


・・・パートのおば様が、キリリと復帰なさった暁には、いじめられるな。


そんな感じでちょっとしたアクシデントがあったけど、私のまわりはいつもの日常を取り戻してきた。


バイトを夜の10時に終えて、コンビニによって帰ろうとした時、珍しい人間に会った。


私は、今度は何だ、とため息をつきたいのを我慢して、コンビニでさりげなく手渡されたメモに書かれた携帯に家に自転車で帰りつつ電話をかけた。


「何の用?1分でどーぞ。」


電話越しに、相変わらずだ、可愛げのない、との声がする。


「私は必要な人にしか、この私の貴重な可愛さをあげない事にしてるの。切っていい?」


そう言って切ろうとした。


男は、一言、「最近まつわりついていた害虫な、やられたぞ。」


そう言って、私の反応をうかがっているのが、電話越しとはいえ注意深く伺っているのがわかる。


私はそれが何?って感じで電話を切った。


普段通りに、いつものようにを心掛けて家に帰る。


あの男の事だ。


私の様子がわかる所にいるに違いない。


相変わらずというのなら、あんたこそ!といってやりたい。


陰険で、腹黒で、何であんなのが警視庁の星なのか、本当に納得できない。


大嫌いだ、怖いから、いろいろな意味で声には出さないけど。


私は家に帰ってすぐにお風呂に入った。


いつもは、シャワーですませるけど、今夜は特別。


お風呂のお湯がたまったら、急いで浴槽に飛び込んだ。


そして浴槽にくるっと体を丸めて潜った。


ゆっくりと目をあける。


浴槽のぬるいお湯のなかから天井をみあげる。


ついで浴槽の中のぬるい湯の中をみつめる。


叫びだしたい気持ちを我慢せず「わー!」と声を出す。


もちろんお湯の中だから、声などでない。


息継ぎをするため浴槽から顔をだし、それを何度か繰り返し、やがてわめくのをやめると、浴槽の中で心行くまで泣いた。


あのまとわりついていた男が襲われたらしい。


あれだけの人数を従えていたのに、死んだのか?


考えるな、考えるな!


私のせいのはずがない。


ここは日本だ。


世界でも安全な国だもの。


かの人は遠い異国で自殺した。


それが真実。


都市伝説など、他愛もないからこそ都市伝説なんだ。


ありえない。


あのまとわりついてきた男は、いかにもな男だった。


まともな稼業には見えなかった。


トラブルをいつも抱え込んで、そして生きてきたに違いない男。


私には関係ない。


ああ、だけど・・・・。


それなら、あの嫌味インテリが何故今夜わざわざ私の前にあらわれた。


随分前に会って最後のあの男が。


しっかりしろ!私はいつのまにこんなに弱くなった?


何でもない、あるはずがない。


浴槽のお湯の中から眺める外界は、ひどく揺らいで、私を不安にさせた。







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