第31話 動き出す
全くいい迷惑だわ。
あと数日、ここで「保護」されなきゃいけないらしい。
どのくらい報道規制が守られるのか、時間との勝負って事。
この私が見世物パンダなんて冗談じゃないんだけどなぁ。
絶対ネットのさらし決定だね、勘弁してよ。
小学校、中学校、高校と私は上手に写真なんてとる行事や何やらを綺麗にスルーしてきたから、学校のアルバム関係は大丈夫、と思い起こす。
だけど高校に入ってからのプライベートは、ちょっと自信がないんだよなぁ。
本当に最近ゆるんでいたからね、私。
あぁ!思い出した。
因縁のバイト、あのファミレスでのバイト用の写真がある!
落ち着いてあの写真を思い出す。
・・・うん、あれはいい感じの写りだったよね、許せる範囲だ、ほっと胸をなで下ろす。
だってさぁ、絶対流出するに違いない自分の写真だよ?そりゃあ、写りが気になるって当たり前だよね。
多感なお年頃の乙女としては大事な大事な大事なことだよね。
反対に今回クロがどれだけやらかしたって、全然私は気にしていない。
あのクロだもの。
私の知らない所で、私の知らない人達が死んだ、ただそれだけ。
まぁ、店長には運が悪かったとあきらめてもらうしかない。
私だってクロが生きて日本にくるって知ってればさぁ、自重したはず?うん、少なくともわかってたなら、ゆっくりお風呂に使っているような生き方はしなかった。
最悪すぐに日本を出たよ、そのくらいわかってる、何と言ったってこの国は逃げずらいもの。
しかし、高橋さん達、本当にクロをこの日本でとらえられると思ってるんだろうか?
確かに津々浦々に張り巡らせている情報網は世界に誇るものだろうけど、それがクロに通用するとは思えない。
クロはいざ動き出すと、どうしてってくらい人間離れしてくるし、存在や気配も綺麗に自由自在にあやつる。
無理だと思うなぁ、そう他人事みたいにそう思う。
それにしても、クロはいつ、どうやって日本にきたんだろう?
どの伝手を使ったかが今後の私にも関わってくる。
大橋の弁護士と一緒に、私の保護者が午後くるそうだ、また面倒な時に面倒な!
この人ともここから帰ったら一度話しをしなきゃいけないな、と思う。
時間があれば、だけど。
何か理由があるんだろうと思っていたし、対立するのはめんどくさいしなって感じで、このバカげた茶番につきあってたんだけど、そろそろ私の冬眠期間も終わりにしなきゃいけないみたいだから、もうヤメだ。
私はありがたいことに、この平和な国で確かに癒され微睡んでいた。
それを考えると、きゅっと胸のどこかが痛む気がするけど、私はその思いを大切にそっとしまいこんだ。
私はこの国が好きなんだ、ちょっと熱くてちょっと冷めてて、微妙な線引きを上手にできる人々が住むこの国が。
そう思う私は、すでにこの国を去るとすでに選択しているんだろう。
私は、やっと今、冬眠から覚めた。