第3話 胎動
私は毎夜メールをかかさずチェックしたが、あれ以来ることはなかった。
最初はいろいろ考えて不眠がちだったけど、もうひと月近く過ぎた今、その不安も日常の中で埋もれつつあった。
それよりも夏休み前の期末テストもあり、友人たちとテスト勉強に追われていた。
キンコンカンコンとテスト終了のチャイムがなる。
やった!もう何はともあれ、結果など、うん、あまり考えまい、やっとこれでテストから解放される。
何と言う開放感、心なしか冷房のきいていないこの教室も、今日は爽やかに感じる。
みんなでワイワイお昼をどこで食べようか、と騒いでいると、ヨッコちゃんの鶴の一声で、カラオケでランチにしよう、となった。
まあ、いいか、あそこのカラオケはドリンクバー無料だしなぁ、話しがまとまり総勢8人で高校の傍のカラオケ屋に繰り出す。
最近はやりのグループの曲を皆で二チームにわかれ、振り付けつきで歌い得点を競争する。
負けた方が料金を払う、という事になったので、そりゃあもう頑張るしかない。
制服のブラウスをクルクルとまるめて裾で縛ってきっちりヘソだしスタイルにする。
何せうちのチームは腰をくるくる回して歌うグループの歌担当チームになったからね。
その真似っこも大事だ。
女ばかりとあって、胸の際どい所までブラウスをあげて、やる気アピール。
ふふ~ん、私のこの腰のキレをみよ!とばかりに私も踊りながら歌った。
こんな時は女ばかりの大騒ぎの方がとても楽しい。
ヨっコのところは、反対にかわいい女性グループの担当だ。
同じく振りもばっちり決めてくる。
私達は、はちゃめちゃカラオケを楽しんでいた。
私もポッキーを食べながらおかしくて涙まで出る始末。
それを見ている、防犯カメラを動かしてみている人間がそばにいる事など全然知りもしないで。
「どの子だ。」
カラオケ店の別室でわざわざ取り付けさせて、カラーの防犯カメラの画像を見ながら傍らの側近に問いかける。
「はい、今歌っている娘の左隣りで踊っている娘が例の子供です。」
俺はその画像をズームにさせて、何の感慨も持たずに眺めた。
この世の何も知らず笑いさざめく子供たちを眺める。
画面が大きくなり、その娘が一人大きく映し出された。
肩までの染めていない黒い髪に、楽しそうに笑うその顔は綺麗系だ。
切れ長の目で、そのまなじりから今は涙を流して馬鹿笑いしている様子がわかる。
ちょうど時間もぽっかりと空いて、調べさせていた娘も三時間ほどカラオケ店にいるという報告を聞いた時、それならちょうどいい、一度見てやろうと部下たちを連れてやってきた。
今このカラオケ店は、この子供らのグループ以外、貸切りにしている。
ちょうどその娘がグラスを持って席を立った。
ドリンクバーにいくようだ。
俺もすぐさまドリンクバーに向かった。