第28話 疑惑
あれから、すぐに部下の人がやってきて、オジサマはお仕事に行った。
もしかしてと慌てて仕事を抜け出してきたらしいけど、わざわざ抜け出してやった事が、自分の屋敷で、あの高橋にいびられた事と、私に嫌がらせでセクハラした事だなんて、終わってるよね。
本気でクロとやりあう気でいるみたいだけど、無理だね、あの人。
気持ちは・・・確かにあるだろうけど、人でありすぎる。
あのセクハラの時に言った言葉一つとっても、私をこうして巻き込む事をちょっとは気にしてるって、自分で正直に言ってるようなもんだもん。
まあ、別にオジサマがどうなろうと私は知った事じゃないし、いいことはいいんだけどね。
ちょっと気になるわけ。
クロの動きが遅すぎる。
今日のあの若いお兄ちゃんを殺るまで、前回オジサマ一行を襲ってから時間が空きすぎている。
クロが何を考えてるなんて、昔も今も私にはわからないけれど、ある意味天才なクロが日本にきてからの動きが、すごい遅い。
私相手にただ遊ぶにしても、おかしすぎる。
言っちゃなんだが、私はクロの生存と日本入国を知って、思い浮かべる私の知り合いのどれだけが失われるのか、守る、との思いと同時に、無理だろうとも冷静に思っていた。
私は素早く取捨選択をし、ヨッコちゃんと祖母の2人のみが残った。
それなのに蓋を開けてみれば、それほどのこともない、な~んも、だ。
だから、ちょっとだけ私は思ったくらいだ。
あの無言電話とメールは確かにクロだったけど、それで日本にいるのがクロ、ってわけじゃないかもしれないって。
なにせクロ信者のバカは世界中にいる。
誰か影武者を使ってるのかもって。
もちろん、今日見たのは確かにクロだった。
じゃあ、クロはなんでこんなに長い間静かだった?
本当に?
あ~嫌だ、いやだ。
おバカと暮らすと私までおバカになっちゃうの?
私はあの時思ったじゃない。
自分のバイトするファミレスが、真っ先に血の海になるだろうって。
ヨッコちゃんにはうまいこと言って、新しいバイト先に何気に移動させたんだけど。
うん、後は何がおころうと、と思っていた。
その時ふと思った。
あの元店長さん達はどうしてるんだろうかと。




