第24話 開き直り
ぼちぼちと書いていきます。
遅くなりましたが、今年も良い年でありますように。
この家に、というかこの組織に無理やり、うん私の意志はまるっきり無視だもの、無理やりでいいよね、引き取られてから、私はこの家では自由に過ごすことにした。
あの男が何を考えてるにしろ、私にはな~んも関係ないし。
どうせまともな感じじゃないし、構うものかと気ままに過ごすことにした。
うん、生活費も丸ごとかからないし、こうなったら、せいぜいいつか追い出されるまで、きままに過ごそうと決めた。
どうせ長い事じゃないだろうと思うもの。
まさか、最後はどこかに売られたりしないだろうなぁ、と、ちょっと不安だけど。
あの男ならありうる。
高橋さんに連絡して保険はかけといたけど、しっかり用心だけはしとこう。
それに、私の今逃げてる友人たちも、いざとなれば黙ってはいない。
私の周りには、友人たちのアンテナが幾十にも張り巡らされている。
友人たちには、うさぎのメールで逃走を促したが、それはクロに限っての事。
本来、あの友人たちは、それなりに力は、まあ、親というか一族の力ではあるけれど、力はあるし、それを使いこなしてもいる。
それなのに何故、友人たちは、私の「逃げろ」という指示に従うのかと言えば、簡単だ。
私が嫌だから、それにつきる。
クロが収監されて、クロに関わった精神医療者や検察など沢山の人間の内、クロに影響されたかのように犯罪を犯したもの、何故か行方不明になって、その身をひそめた者は大勢いる。
収監先でさえ、牙が抜かれた状態でさえそれだ。
私達は幼い無垢の状態で、バリバリのクロと暮らした。
クロ信者たちが言う「ゴールデンチャイルド」だ。
あの時の私達は一つだった。
その中にはクロもいた。
私達はあの救出先である施設で、既に自分たちの変容をちゃんと理解した。
大人たちは、全然話さない私達にお手上げだった、あの時・・・・・。
私達は自分とこの仲間たちが、本当に混じり合った事を実感していた。
その身のうちに、クロもまた混じっている事に、友人たちは慄いた。
だから、私は、その時、絶望と歓喜に染まる友人たちの為、「光」のまま、これからもいる事を約束した。
友人たちの内にあるクロを穏やかに眠らせる為に。
私達がそれを落ち着かせるために、親元に引き取られるまで、ながい時間がかかったのは、皆の内にある「クロ」を穏やかに眠らせるための時間がそれだけかかったからだ。
これは私達だけの秘密、大事な大事な秘密。
だから、私は「光」として皆を逃げさせた。
友人たちはクロが怖いんじゃない。
クロと会う事で、自分の身の内で、眠る「クロ」をおこさない為に逃げるんだ。
私だってぞっとする。
彼らが自身の内に眠る人では持ちえないはずの「何か」、純粋なそれを現したなら、その狂気の一振りでさえ、どんな事がおきるのか考えたくもない。
権力も頭脳も持った彼らが、ひっそりとそれを振り上げはじめても、誰も気が付かないだろう。
そして、私は、それこそ万の人が死のうとも、目の前で、たとえ、あの頃のように子供が死のうとも、あの頃と違って、友人たちをとる自分を知っている。
私もまた、クロと混じり合った、そういう事だ。
けれど、けれど今の所、私はまだ普通の女子高生だって思うのよ。
それなのに、何故みんな納得してくれないのかな、どうみても普通以外ないでしょうに。
溜め息をつきたいわけじゃないけどね、ここに引き取られたって事は、転校しなきゃいけないわけ。
なんで今さら高校変わるとか、マジ勘弁して、って感じ。
あの男バカ?馬鹿なの?
クロの為に、いい迷惑だわ。
まあ、あれこれ考えたって仕方がないわね。
今さら、だわ。
物事は、なるようにしかならない。
華の女子校生として、斜めってる気がしないでもないけど、これは、あの時、あの場所で私が学んだことの一つだもの。
人間はそれほどすごくもなんともなくて、そしてすぐ簡単に壊れる。
クロと何があったかなんて知らないけど、あのろくでもない場所であったことなんて、そういう事なんだろうけど。
だけど、あの男はわかってない。
確かに悪い事の一つや2つ・・・・、ううん沢山していそうな男だけど、根本的に存在のありようがクロとは違う。
闇に色があるとすれば、あの男の闇は、黒々としていても所詮人が持つ闇でしかない。
だけどあのクロの闇は、その闇でさえ飲み込み続けるブラックホールのような異質なもの、既に闇ですらないもの。
理屈も何もなく、ただ問答無用で呑みこんでいくもの。
人の進化に対して、どんどん新しい病気が増えていくように、対人間用としてクロみたいな存在が現れたんじゃないかと、今はどこかに逃げているはずの友人が言っていたけど、ホント神様お願いしますだわ、私は巻き込まないで!って、ここ重要!。
あ~ヤメだ止め!うだうだ考えるのは嫌いだわ。
どうせ考えるんなら、今はとっとと、この茶番が終わる事だけを考えればいいのよ。
あの男と顔を合わせることなんてないけど、会いたくもないけど。
さあ、きりがいい来週から、新しい学校に編入だ。
まったくやんなっちゃう、どうせ長く通う事なんてないのに、ホント面倒だよね。
「はじめまして」から、やり直し。
あの海の見える高校も、クラスの友人たちも、ヨッコちゃんも・・・・・。
私は夜の空を見上げた。
ここにきて唯一いいのは、この庭だけだ。
私はずるずると寝袋を引きずりながら、今宵も天を見上げる至福の時間を満喫しに庭のお気に入りの場所に向かった。
私は昼の光よりも、夜に浮かび上がる光の方が好き。