第23話 惑い
大橋視点です。
無理やり親権者としてねじこんだ。
その時初めて、「光」と呼ばれた子供、俺の憎悪を一身に浴びてなお、平然としている子供が、俺を見た。
今までファミレスなどで何度も見てきたはずの、その子供の今時の女子校生と同じような苦労知らずのその表情が。
そのさまを見る度に、俺の可愛い妹の愛が受けられなかった女子校生としての「生」に歯ぎしりし、何度も何度も殺し方をかえ、俺の中で殺し続けたその子供の表情が、一瞬俺の顔を見て変化した。
生き物としての温度を感じさせない昏い眼差し、それと同時に浮かび上がる昔見た仏像に似た、浮かび上がるその微笑みは慈愛に満ちて、それなのに容赦のない何かをつきつけてくる。
俺は初めて、この「光」と呼ばれた子供と邂逅したのだと悟った。
引き取ったとはいえ、俺は持て余していた。
ただ憎むばかりの存在だったのに、あの狂った殺人鬼を呼び寄せる「エサ」でしかない子供に、憎むばかりでない感情を、あの邂逅以来もってしまったから。
今までこの子供については、詳細に調べた。
生活パターンもその中にはあった。
バイトから帰れば家に引っ込み2度と出る事はない、とそれにもあった。
ところがどうだ。
俺が仕事を終えて帰ってくる深夜なども、奥に隠れてあるような小さな日本庭園にシートをしいて、よく丸くなっている。
最近は冷えているので、誰かが用意した寝袋にくるまっていたりする。
この家にいるのならば、自由にさせてやれ、と言ってあるので、こうして庭にいても誰にもとがめられはしない。
今夜も日付がかわった頃帰った俺は、いつものように庭に目をやる。
そこには綺麗な満月を浴びて、まるで天女のように月を焦がれて両手を差し出すような子供がいた。
その仕草はいとけないのに、月を見上げるその瞳はまるで世界にたった一人のような悲哀をそこにため、ただただ、真っ黒だった。
この闇の世界で生きる俺や、俺の知る誰よりも、人で持つにはあまりにも冷たい哀しいその瞳に、俺は渡り廊下で立ちすくんでしまった。
俺は自身から薫る甘ったるい香水の匂いに我に返ると、いらただしく元来た廊下を引き返し、酒と女を再び抱きに本家を出た。
側近の高瀬が俺を静かに見つめてきた。
知ってる、ちゃんと知ってる。
俺は目で答えた。
あの子供もまた、愛と同じで、本当に違いはないのだと。
俺は何をしたかったんだ?
ようく考えろ。
伊達に長く生きちゃいねえ。
俺は行き先を変更させて、形見の櫛だけが入っている、愛の墓参りにそのまま出かけた。