第19話 変わらぬ日々
あの人がどうやら日本にいるらしい事がわかったけど、それで私にはりついている人々は、がっかりしているんじゃないだろうか。
警察の人も、負傷したあの男の部下も。
楽しい夏休み終盤の友人たちとの旅行も、何やかやと理由をつけ不参加にして、2人片時も離れずにいる身辺警護とは名ばかりの見張りの刑事さんも、ほら、安全大国日本だもの、いつまでもついているのもまずいらしく、何の成果もないんだもの、その方たちも二学期がはじまって2週間もすれば、いなくなった。
陰険メガネが何を考えているか知らないけれど、表だっては、私に平穏の日々が戻ってきた。
ただし、私は少しずつ少しずつだけど草食動物の生き残るためのカンを取り戻すべく動き始めた。
表だっては、ちょっとかっこ悪い気がして体を鍛えになんていかないけど、だってねぇ、絶対監視されてると思うもの、そんな中護身術なんて習いにいくなんて、超恥ずかしいもの。
だから朝と夜、お風呂の中で息が続くまで、繰り返し潜ってじっとじっと弧の世界を味わうの。
その水の中の小さな世界にどこまでも沈み込み思いを沈殿させながら。
なれてくるに従い、ひどく外の世界に敏感になってくるのがわかる。
あの日々のように、それに近づくように。
けれど、あの時と違ってここは自由という計り知れない広さがあり、自分の両手で足りたあの頃とは違い、ため息が出そうなくらい、守れるなんてとうてい思えない。
だからせめて自分と数少ない友人をあの狩人から逃げられるように、耳をすまし目を開きいつでも駆け出せるように、と思っている。
生き物は簡単に壊れる。
それはしっかりとわかっているから。
そしてあの人がもうじき来るだろう事も、ちゃんとわかっている。
あの人は、クロは何でもないように、あっさり自首したけど、あの単純に思える言葉や行動がそのままのものじゃなかった事も、今の私には理解できる。
だってあのクロと私が名づけた男は、いつだって目が冷えていて、その暗い底から、こちらを大人も子供もなく試していたから。
あの人は確かに人間、いや、生き物の持つ感情など何一つ持ってないんじゃないかと思う。
何のきまぐれでか檻に入り、また出てきた彼。
彼を研究した人達は、彼に首輪をつけたのが私だと言うけれど、とんでもない、彼はたった一つの孤高の生き物で、首輪などつけられるようなカワイイ生き物じゃない。
あの時期の彼は、人として慈しむものの代表の子供達を殺すことに興味を覚えたにすぎず、きっとそれ以前にもいろいろと気ままに試していたはずだ。
考えたくもないけど。
それは誰にも言った事はないけど、確信してる。
今は、今は・・・・・、私で遊ぼうとしてる。