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閉じた環  作者: そら
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第18話  過去⑤

そこの家での暮らしは不思議なものだった。


声を出さずに会話する私達。


唯一男が会話するのは、私だけ。


私達はそれぞれ新しい名前をつけあった。


「light」それが私の名前、それは私に男がつけた名前。


男の名前は私がつけた。


あの男はまるで黒だと、誰かが言って、いつか黒の言葉をわかるだけ言いあったことがある。


それを覚えていた私は日本語で「クロ」と男につけた。


男はそれを大変喜んだ。


私達はその家で夕方から外に出て遊び、月明かりでする影ふみ遊びやカードなどで一緒に男と遊ぶようになった。


けれど、たまに、本当にたまに、そこに部外者が迷い込むことがあった。


貧乏旅をするお兄さん、ドライブで迷い込む人々、それらの人は次の日には姿を見せなかった。


そういうときは私たちは庭の向こうの倉庫をみないようにしていた。


庭の片隅でかまきりが他の昆虫を食べるのを見るまでもなく、私達の周りには生と死がはっきりとしてあるのを知った。


「クロ」がいつも私に触れているようになったのはいつからだか覚えていない。


確か風邪で熱を出した時、その後から「クロ」はいつも私の傍にいるようになった。


私がいなくなりそうで怖いと大人の癖に泣いた「クロ」。


私が庭で座って草の冠を作っている時に、大きい体で私のひざにしがみつくようにして、じっとしている「クロ」。


私がちゃんとご飯を食べているか、じっと見つめ続ける「クロ」。


トランプの神経衰弱で、わざと私にカードの数字をわかるようにする「クロ」。


それも同じ「クロ」だった。


ある日、「クロ」の飼っている大きな犬が子犬を生んだ。


私達はその子犬をじっと見ていた。


あまりにじっと私たちが、私が心を奪われているのを見てやがて我慢ができなくなった「クロ」が飼っていた犬を全て、私たちの目の前で殺しつくした。


人間離れしたスピードで、あの動きの速い親犬さえも殺してしまった「クロ」に、私は怒った。


本当に怒った。


「嫌い、大嫌い。」と泣きながら。


「ごめん、ごめんなさい。」と意味もわからず謝るクロに、その時私が言ったのは、「仲直りなんかしない。」


「ちゃんとごめんなさいしなきゃ仲直りなんてしない。」という言葉。


そうしてクロは、警察に電話して自首をした。


警察がやってきた時「クロ」は機嫌がよかった。


私を見て夢見るように微笑んだクロ。


それから、それから・・・・・。


やがて私達はそれぞれの親の元にカウンセラー施設から1年を過ぎたころ戻された。


けれど私や、私達や親たちとは、もはや寄り添う隙間さえなくなっていた。


他の子達はそのまま全寮制の寄宿学校へ向かった。


私もまた日本の祖母の元に送られた。


それはそうだろう。


確かにあの当時の私達は「クロ」同様、異質な存在になっていたから。


その眼差しは子供らしくなく、深い深淵をたたえ、親たちは自分の子供たちのそれに向き合う事などできなかった。















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