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閉じた環  作者: そら
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第16話  過去③

また男がやってきた、子供を連れて行くために。


一番最初に話しかけてきた赤毛の女の子を連れていこうとした。


そして私は初めて抵抗した。


私は男のひざにしがみつき、「連れていかないで!」としがみつき、他の子たちも、私の行動に驚きはしても、すぐさま弱弱しいとはいえ、同じように男の膝にすがりついた。


それを見て、赤毛の女の子も腕であばれだした。


男は一瞬私を見たけど、私達をしがみつけたまま、部屋を出た。


振りほどかれても私は、私達は夢中で男を追いかけた。


「お願い」「お願い」と言いながら。


そうして私達はそのまま、そのおぞましい場所に何もわからず夢中でおいかけた為、何の準備もなしに入っていった。


その部屋はピカピカの長い台が一つと、沢山の大きな刃物、のこぎりが所せましと置いてあり、壁も床も水に浮く絵の具のような形のシミでおおわれた、ひどい匂いがする場所だった。


私や他の子たちも、訳がわからないなりに、思わずその異様さに沈黙した。


腕で暴れていた子もまた。


そうして男の顔を見て、何故かわかってしまった。


とてもよくない事をこの男は、ここで私達全員にするつもりだと。


だからかまわず追いかける私達も連れてきたんだと。


へたりこむみんなとまるで人形のように大人しく台に横たえられる女の子。


男が大きな包丁を手にしてふりかぶった瞬間、私は夢中で男に抱きついていた。


「やめて、やめて!」


「こんなの楽しくないよ。」


「楽しくなきゃダメだよ!」


「私と遊ぼう、楽しく遊ぼう!」と。


ぎゅっと目をつぶり、私はまた何かをわめきながら、男に必死にしがみついていた。


自分でも何故体が動けたのかわからない。


ただ、このままは、とてもこわい、そう思った。


どのくらいたったろう、私は初めて男の声を聞いた。


「楽しくないの?俺は楽しいよ。」


その声は綺麗で低く聞こえたけど、それと同じように、とても変だった。


まるで、私が英語の絵本を声に出して読むときに似ていて、何の抑揚も感じなかった。


私はそこで初めて男をちゃんと見た。


やはり父より背がひょろっとして高くって、この間みたオズの魔法使いの絵本にかかれていた、かかしにそっくりだった。


幼い私は、もうどうしていいかわからず、その幼さのまま癇癪をおこしたかのように、大声を出した。


「絶対ダメ、私が楽しくないもん。私がおもしろくないもん。そんなのダメ!みんなが楽しくなきゃ絶対ダメ!」


支離滅裂な幼い子供の言葉に男は何を思ったか、その大きな包丁を持ったまま、私に目線をあわせて、しゃがみこんできた。


興奮状態にある私は、その時、男を怖いともなんとも思わなかった。


私と男はじっと目を合わせていた。


私は男を見ながら、なおも楽しくないのはダメ、と小さな声で言い続けた。


どのくらいたったろう、男はふわりと笑うと、「じゃあ、俺の初めてのオトモダチだね。遊ぼう。」


そう言って私の頭を撫でて、私の手をつなぎ歩き出した。


そのまま私も何が何だかわからずに、ふらふらと、今おもえば、酸欠状態みたいだったんだと思うけど、ふらふらと男にうながされるまま、その部屋を自然に出てしまった。


思い鉄製のドアがバタンとしまる音で、びくっとした私は、その音で大事な事を思いだした。


みんながまだあの恐ろしい部屋にいるという事を。


私は男とつないだ手を放して戻ろうとしたけど、つながれた手はびくともしなかった。


男が「何して遊ぼうか?」とニコニコして話しかけるのに、お友達がまだ中にいるから出して、と頼んでいた。


男が不思議なガラス玉のような感情のない青い目で、私を再びじっとみつめる。


「あのね、大勢で遊んだ方が楽しいんだよ。ほんとだよ。」と私がドアを指さしていうと、首を一度かしげた男は、また怖いと感じるあの部屋で包丁を振り上げた時のような不思議な表情になり、あのドアをじっとみつめた。


私は男の腕を引っ張りながら、2人じゃダメ、ホントだよ、と、泣きそうになりながら必死に繰り返した。


私が自分からこの男に初めて触れた瞬間だった。


すると男は私がつかむ腕を、本当にじっとじっと見て、やがて反対の腕を持ち上げると、私の頬に人差し指でそっと触れ、何度もなぜていく。


何かを確かめるように、しまいには手の平全体で私の顔を撫でていく。


それはとてもひんやりとした温度の感じさせない手の平だった。


やっと男が私の手を取って引き返してくれた時、重いドアを開けて、急いで戻る私がみたのは恐怖に錯乱する台の上の女の子と、うつろな顔をした子どもたちだった。



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