第15話 過去②
そうして私はいやおうなく、子供の順応さで、その部屋での暮らしに徐々に慣れて行った。
1日1食の食事と水を持ってくる時と、あの時のように思い出したかのように、子供を一人連れて行くときにしか男は見なかった。
トイレだけはきちんとついていたおかげで、空腹や喉が渇いた時はトイレの水をみんなで飲んでいた。
その時の子供の数は8人だった。
男の子が3人に女の子が5人いた。
この部屋では何より暑さが辛かった。
部屋の壁にぺタっと体をよせ、じっとしていることを自然覚えた。
時間の感覚もない中で、私はある日歌を歌った。
大好きなアニメの歌を。
すると誰も話さない中、一人の女の子が初めて小さい声で私に話しかけてきた。
「それ知ってる。」と。
それからぽつぽつと話すようになり、時々アニメの歌を皆でかすれた声でクスクス笑いながら歌うようになった。
日本にいる祖母が日本語の勉強のために送ってくれるアニメが、誰ともしゃべらなかった私達を初めて結びつけてくれた瞬間だった。
それから急速に私達子供同士、孤独という言葉は知らなかったけど、その感情を癒しあった。
みんな今の状態がなんなのか怯えていたから、理屈ではなく本能で、家族の事も自分の事も話さず、ただひたすらアニメの話しをぽつぽつしては小さく笑いあい、歌を思い出しては歌った。
そうしてまた、男がやってきて私より大きい女の子を腕に抱え出て行った。
猫バスに乗りたい、そういっていた子。
私達が7人になった時、一番体の大きい男の子が言った。
「ねえ、みんなどこにいっちゃうの?」
私達は扉の方をみつめたまま、誰も答えは知らず、ただ黙るしかなかった。