第12話 許されざるもの
澄江が泣いていた。
愛の行方がわからないと。
もうじき7つになる愛が勝手にいなくなる事はない。
やっと日常会話がわかってきたと言っていた。
隠れて泣いていたと聞き俺も泣きたかった、友達ができたと聞き俺も嬉しかった。
どこにいくにも澄江に言わないわけがなく、その澄江の存在が新しい養父母と、なじむまでいかない要因とはいえ、俺は強硬に澄江をとどめた。
本当は直接電話で話したかった。
けれど、それをしたら愛に余計な感情を与えてしまう。
そうして我慢して我慢して・・・・。
それから愛の遺体がみつかったと聞いたのは1年がすぎたころだった。
アメリカの片田舎の大きな農場の片隅で、多くの子供達の遺体と共に、愛がみつかったのは。
生きる屍のごとく、家にこもり情報を見つけてはアメリカ各地に愛を探し続けた俺は、その報告を愛の養い親から日本にいる時に聞いた。
大量にある骨のかけらのどれが愛のものかわからないが、愛の特徴的な髪飾りが出てきたと聞いた。
その髪飾りは祖母が大事にさしていた昔風のもので、アメリカでは珍しかった。
それを愛はいつも大事にさしていた。
俺はほうけていた。
それ以来ずっと。
その形見の髪飾りを澄江が持って帰るまでは。
澄江は俺を見るなり泣き崩れた。
子供の様に号泣する澄江を抱きしめて俺も泣いた。
葬儀にはでなかった俺は、あんな合同葬に出る気もしなかった。
澄江が持って帰った髪飾りで、俺と澄江は愛を心から弔った。
愛はスクールバスで降りて直後さらわれた。
そして今、世界を恐怖で震え上がらせている連続子供誘拐殺人犯の手にかかった。
奴は今檻の中だ。
自分から通報して。
そして俺はやっとなすべき事をみつけた。
何故、どうして、いやどういった状況で愛は殺されたのか、全てを知ろう、そう誓った。
そして、奴は俺が・・・・・。
それまでが嘘のように以前のように、いや、それ以上に俺は力を求め、大学を卒業と同時に取締役についた。
周囲のとりあえずは新人社員として、なんて言葉は実力で黙らせて。
そうして調べて、調べぬいた。
奴の檻の中での様子もまた、くわしく手に入れた。
そんな中、奴が唯一反応するのは、一人の子供の話しだけだと耳にした。
奴が自首した時に、その農場で生き残っていた子供の一人。
けれどその後、奴は更に厳重な刑務所に移動になり、そこは買収もきかず、情報は入ってこなくなった。
生き残った子供に俺は初めて焦点をあてた。
けれどその子供達の情報は隠され、ようよう探し当てた時には、それから何か月もたっていた。
なぜその子供らが親元に帰されないのかは、報告書を見てわかった。
一切口を聞かず、離されるのを極端に嫌がる。
いくら親兄弟が訪れてもそれは変わらない。
収容された施設の一部屋で、ゴムまりのように、くっついている子供・・・か。
やがて、施設の職員は一つの事に気が付いた。
その保護された子供の中で、一番年少の子に子供達はいつも、その体の一部を触れさせていることを。
そして驚いた事に、子供達はしゃべらないのではなく、しゃべる必要がないのだということも。
それは、全てアイコンタクトで行われていたから。
それからの施設の対応は、専門のカウンセラーを全て取り換え、新しくその子を中心に、コンタクトをはかった。
それからはあっという間に、事は良い方向に向かい、それから1年もするころには、子供達はおのおのの両親のもとに帰っていった。
全ては秘されたまま。
俺はまずその生き残った子供6人の足取りをつかまえる為、動いた。
最初の3年は何も、何もつかめなかった。
奴がつかまってから、その時点で5年近くがたっていた。
だが端緒は意外な所におちていた。
奴を崇めるいかれた連中の一人のサイトに、俺の大学にいる奴はゴールデンチャイルドの一人に違いない、そういう数多ある文章の一つだった。
ゴールデンチャイルド、あのいかれた殺人鬼と最後は奇妙な共同生活をし、生きていた子供達を奴ら信者はゴールデンチャイルドと呼ぶ。
自称他称するゴールデンチャイルドの情報も、俺は多額の金をばらまいて集めていた。
俺は今まで何千とあらわれるそれらを、必ずシロとわかるまで調べさせた。
金など幾らでも出す俺は、ここで初めて本物をみつけだせた。
その名門大学に通う学生は、自分では誘拐犯にかかわったとは一言も漏らしていないが、その周辺を調べて、空白の時間があるのを見つけた。
専門に雇っているアメリカのチームが、すでに削除されたデータを復活させ、両親からの捜索願いが出ていたのをみつけた。
そこからは早かった。
子供達の収容された施設も割り出され、唯一残っていたファイルを持ち出した。
子供たちの名前はないが、それは最終的に統括された未完成のレポートだった。
そこで俺は光lightと呼ばれる子供の存在を知った。
奴が唯一反応する名前。
あの異常な世界で特異であった子供の名前。
そして、一人、一人と割り出していった、ゴールデンチャイルドと呼ばれる子供らを。
やがて、灯台元暗し、最後の最後までわからなかった子が、日本人、ましてこの日本にいると知った。
俺はその事実に狂った、確かにあの時の俺は錯乱していた。
何故、何故俺の愛、同じ日本人の愛が死に、その子供が生きている。
奴が刑務所で廃人になり自殺したと聞いたより、より激しい感情がわいてきた。
全ての俺に残っていた感情はそれから、その子供の元に向かった。
初めて実物を見た時、拍子抜けした。
楽しそうにカラオケで歌っているのはただの少女だった。
けれど光、と呼んだ時、その目に浮かぶ一瞬の闇に、これか、と納得した自分がいる。
この手で殺してやろうか、あのイカレタ男が唯一執着したお前。
お前を殺せば、奴は、奴が生きてれば泣くだろう。
俺はファミレスで姿を見る度、いろいろな殺し方を想像した。
あの時、普段通りに家の門に車からおりた俺は、一瞬何がおきたのかわからなかった。
背後の護衛の怒声、倒れる音、そして振り向いた俺がみたのは、俺の護衛の10人ほどいたそれを、目深にフードつきのコートをかぶった大柄な男が、軽々と喉笛を切り裂いていく姿だった。
俺もすぐさまその戦いに身を置いたが、この日本で銃など持ち歩いているわけでなく、俺は護衛の警棒でそいつと対峙した。
男はまるで踊るかのように、体重を感じさせない動きで、場には慣れている俺でさえ圧倒されていた。
まるで闇そのものの黒をまとった男。
その時俺は気付いた。
奴だ!と。
真っ赤に燃えた頭で、奴を殺そうとふりかぶった警棒ごしにみた俺は、その瞬間何か所も刺されていた。
ありえない速度で。
倒れる瞬間、耳元で流暢な日本語が聞こえた。
「あの子に囚われているオトモダチ。仲良くしようか?」と。