第10話 長い1日の終わり
私は家に深夜そっと帰った。
携帯は高橋が用意するというのを、はっきりくっきり断った。
あいまいな日本人じゃないので、現金で頂いた。
あの男に携帯を渡された日には、全てその携帯から情報はもとより、悪くしたら家の中までダダもれだ。
もちろん、この家には最早、人権など存在しているわけもなく、盗聴やら何やら、この協力という取り調べの間に、寝てる祖母など赤子のようだもの、きっちりやられていると思っていて間違いがない。
ましてアメリカやヨーロッパ各国など、かの人に関係がある国に、あっという間に情報が洩れているという。
もはや、我が家は日本のみならず、アメリカなどの諜報活動バリバリだろう。
ありえん、映画の世界か!そう怒鳴りたいのをこらえて、それも仕方ないか、と納得もする。
それだけの人間だ、あの人は。
何故アメリカがかの人をいかに、かの人の母国とはいえ手放したのか?
どうせわけのわからないパワーゲームの果て、うまい利益でもあったのだろう。
確かにアメリカでの最後の頃は、あの人は何にも反応せず、痛みにさえ反応せず廃人宣告を高名な精神科医達から宣告されていた。
時々、ふっと現れるあの人の特集で、そう聞いた覚えがある。
もちろん、廃人?そんなの私は信じなかった。
廃人というのは人であったものの行く末だ。
あの人は、初めから人ではありえなかった。
だから私は何を考えてそんな行動をとるのか、と思いはしても、私と私の大事な友人にさえ関わらなければよい、そう思っていた。
私は天井を見上げる。
さて、この天井にもカメラや盗聴器が仕掛けられているのか、大層な事を、と思い、私はバカじゃないかとも思いながら、その天井を静かに見つめて眠りにつこうと思った。
こんなの、あの幼い日に慣れている。
まだ隠そうとするだけカワイイもんだ。
あの高橋からの迎えの電話だと思って、階段を下りながら携帯をみた私がその発信先をみると、我らがヨッコちゃんからだった。
「はい、はぁい。ごめん、ちょい出かけるの~。」
そう言った私に、その携帯は無言で答えた。
確かにヨッコちゃんの携帯。
けれど私の中のもう一人が、彼だ、と囁く。
ヨッコちゃんは?・・・・・大丈夫、写メの最新には彼女はいなかった。
私はしばし携帯をみつめると、そのまま携帯を切って、玄関で靴をはいた。
これはどういう事だろう?
ただ一つわかったのは、パスポートをとるまでもなく、彼は生きているのがわかり、その上、この日本にいる、という事実だった。
私は迎えの車に乗り込みながら、話しても良い事、悪い事を考えて、この件は黙っている事にした。
日本にいるなんて言ったら、私の自由はなくなるに違いないから。
私はベッドに深くおさまり、いい体勢になると、ゆっくりと目を閉じた。
これからの事を考えながら。