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一人だけが違い過ぎる

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/10/14

伝説の聖剣を掲げる勇者、深遠なる魔導を操る大魔導士、そして気配を絶つ漆黒の暗殺者。

世界の命運を賭けた魔王城の最深部で、誰もが息をのむ決戦の火蓋が切られようとしていた。

ただ一人、黄色い安全ベストとツルハシを携えた「現場監督」が、圧倒的な現実感を引っさげて乱入してくるまでは――。

ファンタジーの常識と労働安全衛生法が激突する、異色の現場系コメディ開幕!

「おい、一人だけ明らかに装備の時代が違うぞ!」

魔王討伐のために集まった勇者パーティーの面々は、互いの顔を見合わせて呆然としていた。

先頭に立つのは、伝説の聖剣を洗練された構えで構える勇者。その隣には、怪しいルーン文字が刻まれた杖を握りしめる大魔導士。そして影から静かに気配を消す、漆黒の革鎧を身に纏った暗殺者。ここまでは、誰もが思い描く完璧な王道ファンタジーの陣容だった。

ただ、一番後ろに並んでいる四人目のメンバーを除いては。

「いやあ、途中で道に迷っちゃってさ。遅れてすまんね」

そう言って汗を拭う男が身に着けているのは、鈍く銀色に光る無骨なスチール製の工事現場用ヘルメット。首にはあせも予防のタオルを巻き、蛍光グリーンの安全ベストの下には長袖の作業着を着込んでいる。そして右手には聖剣でも杖でもなく、長年使い込まれた頑丈なツルハシが握られていた。

「……あの、現場監督さん? ここは魔王城の最深部なんですけど」

勇者が引きつった笑顔で尋ねると、男は「作業主任者のヘルメット男」と書かれた名札を指で弾きながら、大きな溜め息をついた。

「分かってるよ。だがな、お前たちがさっきから撃ちまくってる爆裂魔法のせいで、天井の崩落危険度が『レベル5』まで上がってんだよ! 耐震補強工事が入るまで、戦闘は一時中断だ!」

突如として叩きつけられた圧倒的な現実感と労働安全衛生法に、魔王城の緊迫感は一瞬で崩れ去った。

「安全第一! ヨシ!」

男の威勢の良い掛け声とともに、魔王城には無情にも「工事中につき立入禁止」の黄色いテープが張り巡らされたのだった。

ご覧いただきありがとうございます!

魔王城の最深部でも、職場の安全と労働環境を守る精神だけは揺らぎません。「安全第一! ヨシ!」の掛け声とともに、今日も現場監督はダンジョンの安全点検に勤しんでいます。

少しでもクスッと笑っていただけたら幸いです。

面白かった、続きが気になると思ってくださった方は、ぜひブクマや評価(★★★★★)で応援していただけると励みになります!

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