知人が「なんだこれAIか」と脱力感たっぷりにため息を吐くので語り合ってみた
キャラメルマキアートが好きです。
休日。近所に最近できたコーヒーチェーン店に足を運ぶと知人が居た。
親友とは呼べず友人と呼ぶには少しだけ遠い関係。だが互いに不快感はない。
店内は適度に込み合っており座る席に迷っていた私は許可を得て知人の斜め前に座る。
「なんか読みやすいな―って思いながらおかしいと気づいたんだよね」
アイスラテを飲んでいた彼女がスマホの画面を見せる。私も利用している投稿サイトだった。
「これ機械が書いてるわけじゃん? 誰を褒めればいいの?」
作品情報には「AIを一部使用」とある。
比較的まともな人だと思う。コメント欄は閉じてなかった。
「投稿した人はクリエイターを名乗らないでほしいな。なんかムカツクんだよね。苦労のあとが見えないっていうか」
さすがに言いすぎだと思った私がたしなめる言葉を出す前に彼女が続けた。
「考えてみたんだ。これさ、読んでる方としては時間を無駄にした―って気持ちになるよね」
たしなめる言葉を飲み込んだ。たしかにそれは、ある。
「どんなに話が整ってても熱量を感じないから。あと定型文みたいなの? やたら短い言葉が連発するのもイヤ」
「けっこう読み込んでるね……」
「うん。でさ、問題は投稿する人がそれをオモシロイと思ってるかどうかすらわからないこと」
「えっ、そうかな……」
「判断できないからこういうのばっかになってるんじゃん!」
なかなか辛辣だった。
「面白いかどうかすら判断できなくて、その判断すら機械に投げてるわけでしょ? 哀れというか惨めと言うか……何だろうまく言えない」
彼女はそこまで口にしてからしばらく黙り込んだ。
共感できる部分はあるがただ頷くだけなのも違うと思って私も言葉を探した。
「投稿する側としては自分で書いてると思ってるわけでしょ。作品出して俺スゲーって考えてるわけでしょ。でもそれが読んでる方としては『なんだAIか』の一言で終わっちゃうのって悲しくない?」
「苦労した割に報われないっていうか……ああ、苦労してないのか。いやそんなことないよね、たぶん」
一呼吸置いてからも彼女は辛辣だった。
反論らしい反論は思い浮かばないので「そうよね」と返す。
「でもAIじゃん」
「最初の着想だけはオリジナルかも。一部使用ってそういう意味じゃないのかな……」
「今はその導入すらチャットなんとかで出してるんでしょ? これも大きな枠組みの中では創作と呼べるかも知れないけど『作品』じゃなくて製造物だよね」
アイスラテにガムシロを追加しながら彼女は言う。
「無機質な感じがしてぴったりじゃない? 私天才かも。ボコボコにしてるつもりはないけど問題ないでしょ。だって相手は機械だもん」
たしかに『AI小説家』や『AI絵師』の呼称に思うところはある。
「犬の形をしたロボットの品質試験で人間が何回も蹴っ飛ばして倒してる動画あるじゃん。あれ見てかわいそうとか非人道的とか感じちゃう人ってどれくらいいるのかな。それと同じ」
犬好きな人はなにか感じるかも知れないけど彼女の割り切り方がすごい。
「仮に感動作品だとしても感動をぶち壊す要素でしかないAIが入ってる時点で読み手の私はなにも感じないなぁ。ただ時間を奪われたくらいにしか。あ、きっとそれだわ! 一番のむかつきポイント」
「むかつきポイント……」
「そう。感動のやり場がないんだよ。投稿してる人も恥ずかしいのかコメ欄閉鎖してる人が多いじゃん? あれ最後の良心だと思うんだ。人間としての」
「自分から称賛を浴びたいとか言い出さないのは姑息だけど、その反面合理的……ってこと?」
「うん。だから、なんでこんなもの置いてるんだよって思うしかないものね」
しばらく放置されてた私のコーヒーが冷めてることに気づいたので一口飲んでから尋ねる。
「中には楽しい作品とかない?」
「ん、『作品』ねえ……そこはまあいいか。ないとは言わないよ」
「じゃあいいじゃない。少し得したと思えば」
「良くないよ。『たのしかったー! なんかコメントしよう……なんだAIか』ってのが多すぎて気持ち悪いじゃん!」
なるほど、さっきの話に戻ってしまうわけか。
「褒められるべき人の顔が見えないってことね」
「うん。騙された感じ。でもさ、これに気づかないで出版社の人が声をかけちゃうこととかありそうじゃない?」
「実際あるらしいよ」
「どうするんだろうね、そういう時。版権とか全部出版社のものになるのかな」
「難しいことはわかんないけど後始末は大変そう」
「AI小説にぶつからないためになんか対策ない?」
「ミュートとブロックかな」
ありきたりな返しだがそれくらいしか思いつかない。
「やっぱそれかー。でもそれすらめんどくさいよね。これAIかどうか疑うことがすでにストレス」
「疑うコストも馬鹿らしいし読まなきゃいいんじゃない?」
口にしたあとで我ながら身も蓋もない返し方だと後悔した。
「だーかーらー!読んだあとに気づくしかないわけよ。そこが駄目ポイント」
「隠してる場合もあるよね。AI使ってませんって」
「本人はうまく隠せてると思ってるんだろうな―……はぁ……」
「見たあとじゃないとわからないし。実害はなさそうだけど」
「アンタ話聞いてた?」
どうも私はこの手の話題は苦手らしい。今日はよく頑張ってる方だと思う。
悩みと呼べないほどの悩み。怒りと呼べないほどの怒り。
介護職なので日常的に経験することだが今は休日であり相手は知人だ。
なにか良きアドバイスを。
彼女にとっても、自分にとっても解決の糸口となるようなものを考えていると……
「あっ、いいこと思いついた! 全部AI小説だと思えば……」
ポンと膝を打った彼女は言葉を切ってしばし沈黙。黙考。
知人は上を見たりしたを見たり。私は壁にかかった南米の市場の絵を眺めた。
「「いや、それはない」」
やがて声も重なり二人してがっくり項垂れた。
アイスコーヒーの氷がカラン、と音を立てて溶けるように。
結論は出ないのでまた次回。 →つづき https://ncode.syosetu.com/n8951mv/
【後日談】「なんだこれAIか」とため息を吐いた知人と再び語り合ってみた
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