無能と追放された付与術師は、すべてを【強制没収】して世界を奪う
「――アレン・フォン・グランツ!
貴様のような無能な落ちこぼれに、我が公爵家の娘を娶る資格はない!
本日をもって、一切の特権を剥奪し、王都から追放する!」
きらびやかな王城の大広間。
豪華なドレスを纏った令嬢の傍らで、宰相の嫡男が、勝ち誇った笑みを浮かべ、指を突き立てている。
取り巻きの貴族たちは、せせら笑いながら囁く。
「まさか、『役立たずの付与術師』が生意気にも高位貴族の娘と婚約しようなどと」
「身の程を知れ!」
冷徹な嘲笑の雨が、アレンの頭上から降り注ぐ。
だが、アレンは悔し涙を流すどころか、盛大な溜息をついて眼鏡の位置を直した。
(……やっとか。面倒なしがらみはすべて消えたな)
アレンがこの世界に転生して以来、ずっと縛られ続けてきた不毛な婚約。
周囲の人間はアレンを「最底辺の村人崩れ」と侮り、スキルがどれほど異常なものか微塵も気づいていない。
「追放、ですか。承知いたしました」
アレンが淡々と返答すると、焦ったのは相手のほうだった。
泣き叫んで許しを乞うはずの男が、あまりにも冷静だったからだ。
「なっ……強がりを言うな!
お前のような無能が、どうやって生きていくというのか!」
「さあ、どうでしょうね」
アレンは冷ややかに微笑み、胸元から一冊の古びた魔導書を取り出した。
表紙が青い光を放った瞬間、大広間の空気が一変する。
――アレンが地道に構築し続けていたのは、付与術ではなく、「対象のあらゆるステータスと所有権を、すべて無効化・強制没収する」という、世界で誰も到達したことのない規格外のスキルだった。
「……身の程を知らないのは、あなたたちのほうだ」
アレンが指を鳴らした瞬間。
目の前で嘲笑っていた貴族たちの頭上に、突如として不気味な黒い魔力の文字が浮かび上がり――装飾品、称号、そして家門の全財産の所有権が、音を立ててアレンへと移り変わった。
「――は? な、何だこれ、私の財産が、魔導具が……っ!?」
青ざめた嫡男が絶叫する。
「な、貴様……いったい何をした……っ!」
「奪っただけですよ。
あなた方が無能の切り捨てと称して、他人から奪ってきたものと同じようにね」
もはや立っていることすらできず、床に崩れ落ちて這いつくばる元貴族たち。
「役立たずの落ちこぼれ」は、絶望に染まった大広間を一瞥すらせず、震える令嬢たちを置き去りにしたまま、扉を押し開いた。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
決まりきった運命や、不条理なプロットに縛られた世界。
そこから一歩を踏み出し、自分の手ですべてを回収していく主人公を描きたくて執筆した短編でした。
奪われた側がただ泣き寝入りするのではなく、静かに、そして圧倒的な力で世界の構図そのものを書き換えていく――そんなカタルシスを感じていただけていれば幸いです。




