乙女
「・・困りましたね。」 「ああ。どうしたものか。」
目の前で暴れているライオンを尻目に、群衆は皆、ため息をつくほかなかった。
彼は”まだ帰りたくない”とでも言わんばかりに今も、勢いよく吠えまくっている。
グオオオオオオオオ!!
「うわっ。」
捕獲しようとしたハンターの一人に向かって鋭い爪がかする。
「大丈夫か!?」 「あ、ああ。・・なんとか。」「危なかったな、お前さん。」
よくこういった年があるのだ。 彼が”帰りたくない”、と駄々をこねる年が。
こうなるともうお手上げで、最終的には今のようにハンター達を呼んで強制的に退場させる流れになる。
が。
今年はなかなか上手く捕まえられない。例年になく虫の居所が悪いようで暴れっぷりも尋常ではない。
いかんせん、言葉の通じない相手であるのでなおさら厄介である。
このままでは犠牲者が出ないとも限らない。
と、そのときであった。
『あんた!!いい加減にしなさいよ!!!』
突然。
突然、ドスの効いた声がその場に響き渡る。 そして、その声に振り向いた群衆の一人がつぶやいた。
「あ、あなたはたしか・・。」
ひとりの女が、群衆をかき分けながらズカズカと広場の中央に向かって進んでいく。気づいたハンター達がぎょっとしてフリーズする。
そして、彼女の姿を目にしたライオンは大きく目を見開く。驚きのあまり、噛みついていた武器から・・思わずポロッと口を離した。
あっというまに女はライオンの目の前に立つと、急に大人しくなった彼を見下ろす格好で睨みつける。
気のせいなのか、ライオンが先ほどまでとは打って変わりオドオドしだしたようにさえ見えた。
息を呑む人々。
我に返り、止めようとするハンターを手で制しながら、彼女は怒りの形相で叫ぶ。
「あんたさあ~、今がいつだかわかってんの?!もうあたしの番なの!!【乙女座の季節】はもう始まってんのよ!ほぼ毎回、手間かけさすんじゃないわよっ!!【獅子】はとっととお帰り!!!!」
そのまま勢いよくパコーンと頭をはたかれた”獅子”は子犬のように「クゥ~~ン」と弱弱しく小さく唸るとしょんぼりとした様子でうなだれながら広場を去っていくのであった。
完




