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殿下の子飼いは無害なコリス  作者: アカツキユイ


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58 もぐもぐヤミィ

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

「……出るな、って、言ったじゃないの」


 精霊を食った箱は、ゆらゆらと気配を立ち上らせている。


 おそらくあの子はわかっていた。

 何かがあると。

 そして、あの子はわかっていた。

 私なら対処できると。


 だから、食われた。


「……くそったれが」


 構えていた魔法銃を素早く懐にしまうと、テーブルの上の箱を囲むように投擲ナイフを投げる。

 魔法陣を起動させた後、左手の腕輪に軽く触れた。


「……ん」


 殿下の魔力が身体を巡る。

 ()()()()()()()()()魔術式を瞬時に組んで魔力にぶち込み、間髪入れずに起動式(コード)を唱えた。


焼き尽くせ(ヘルフィール)



 精霊たちは名あり(ネームド)と呼ばれる子たちを除けばみんなひとつだ。意識や記憶を共有している。

 そして、消えても、また次の子が生まれる。

 あの子たちは、それが自然なことだから、消えることを悲しまない。


 だけど、人は……私はそうじゃない。

 だから、距離を取るのだ。


 あの子が箱の中で味わうであろう得体の知れない苦しみを、他の子たちに共有させてはならない。



 ーー消す。



 火力を一気に上げていく。

 高火力で焼くことであれの吸引力を増幅してやり、引力で全てを圧し潰すのだ。

 圧縮結界の即席版である。


 箱は一気に赤くなり、そして光を吸い込み出した。

 キイイイイイ……と、黒板を爪で引っ掻くような嫌な音が部屋の中に響く。そろそろか。



 ローストビーフ、ムニエル、タンシチュー。

 美味しかったものを、あなたの独り占めで終わらせてあげる。


 ひとりならまだしも、この先会った精霊がみんなみんなグルメでは、こちらの財布が持たないのだ。これも切実な問題である。


 ……そう、切実な。


「おやすみ……もぐもぐちゃん(ヤミィ)


 もやもやの気配が私を狙って大きな手をかたちどり襲いかかってくる。


「無駄」


 腕輪に触れ、さらに出力を上げる。

 もやもやがギャアアアアと断末魔のような叫び声を上げた次の瞬間。




〈いただきまぁす〉




 ばくん、と、消えた。



「……え?」


 箱があったテーブルの上に、小さな何かが乗っている。

「……え、ええ?」


〈ミリィ!〉


 その何かが、ぴゅーんとこっちに飛んできた。

 黒い髪と赤い目の、四枚の羽を持った精霊。

 その精霊が、くるんと宙返りをしてにっこり笑った。


〈なまえつけてくれてありがとー!ぼくヤミィ!〉


「ええええええ……」


 膝からガクンと崩れ落ちる。

 消えるどころか、どうしてネームドになってんのよ!?


「嘘でしょ……」


〈ミリィがよんでくれたからねぇ〉


 にこにこと精霊が笑っている。

 そう、光の粒でなく、はっきり人型の精霊として()()()()()


 精霊の視え方は人によって一律だ。

 顕現できるほど格の高い精霊は例外として、視えない人は全く視えないし、光の粒に視える人はネームドだろうが名無しだろうが光の粒にしか視えない。

 逆に今こうして人型として視えているということは、もう、どの精霊も姿形をしっかり認識できるはずだ。


 なんてこった。


〈それにまだ、さかもりしてない!!〉


「酒盛り……」


 確かに、確かに終わったら酒盛りするとは言った!言ったけど!!

「どれだけ食いしん坊なのよ、あなた……」


〈へっへっへ〉


 鼻の下を指で擦って、ヤミィはにっこりと笑った。


〈はなもげおいしくなかったから、はやくかえっておいしいのたべよー!!〉



 ***


 ……なるほど、悪食というわけではないのか。

「美味しいものが食べたいの?」


〈もちろん!〉


 ヤミィが胸を張ると、私の顔の前に飛んできて鼻にちゅんとキスをした。


〈おいしいの、たくさんたべる!〉


「美味しいの、ねぇ」

 この子はわかっているんだろうか。

「毎日良いものが食べられるわけじゃないわよ?」


〈ミリィといっしょなら、ぜんぶおいしい!〉


「ああ、そう」

 これはもう何を言ってもダメだ。地の果てまで着いてくる。


「じゃあまず、あなたが食べた“はなもげ”のことを教えて。どうだった?」


〈おいしくなぁい〉


「それは知ってる。あれは呪物かしら、それとも魔道具だった?」


〈んー……からっぽ〉


「空っぽ……他には誰もいなかった?」


〈なかった!そうだミリィいきなりつぶすのだめ!ほかのこがいたらたいへん!!〉


 指摘されて初めて気付く。

 なるほど、私も全く余裕がなかったようだ。


「ああ!その通りだわ、ごめんなさい。

 何かがいた形跡も、なかった?」


〈わかんなーい。でもたべられたときはぼくだけぇ〉


「わかった。そういうちょっとしたことも気にして欲しいの。大発見につながると、美味しいご飯にたどり着けるわ」


〈まかせろー〉


 うまく手伝ってもらうにはこれしかない。

 うう、どれだけ食べるようになってるんだろう、この子……。

 食費はともかく、食材の調達が大変そうだ。アプリコットは早めにディアマンタさんに頼まないと。


「はなもげみたいなヤバいやつは、まだどこかにありそう?もう平気?」


〈へいきー〉


「ありがとう。じゃあ早く人質の無事を確認しましょう。

 そこまでできたらお昼。良い?」


〈あいあいさー〉


 人質の状態が問題なければ、一度帰った方が賢明だ。場所が特定できれば救出の時に狙って転移ができる。

 今はネームドになってしまったこの子について、ひとつでも多く知っておくことが最優先事項になってしまった、なんてこった。


「じゃあ、行くわよ、相棒」


〈おうよ!まかせな!〉


 それ、この前私が言ったやつよ、あなた。

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