56 思いっきり暴れておいで
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一瞬。
先生の言葉を、理解することを頭が拒んだ。
「国ごと……じゃあ今回も」
『んー、過去のやつより威力は弱い気はするね。それでもメルセオンの城下町はひと呑みだけど』
「使用者はわかってるんですか?」
『ザルヴェーラ』
「……初めて聞きます」
『いま世界を騒がせている革命家集団、って言えば、わかる?』
「!!スベリンゴの」
ディアマンタさんが言っていた、きな臭い奴ら。
『そう。ただスベリンゴの取引に関しても表立って出てきてはないね。下部組織がたくさんあるらしいから』
「……先生でも、わからないんですか」
『僕はこれでもこの世界では人間なんだ。この世界を管轄してないし、ここの神には口出しできても、この世界に対して手出しはできない。
まあ不可侵だからかなり好き勝手やってるけど、それでも守らないといけない一線はあるから加減が難しい。
……君にいま教えられるのはここまで』
「……はい」
『ただ、ミリィ。君は人間だ』
「はい」
『好きにおやり。その尻拭いはこの世界の神がやる。……まあ僕もちょびっと罰はあるかもしれないけど、そんなことは些事。唾つけときゃ治る』
「……そこは回復魔法使いましょうよ」
『あ!唾つけるのもやめる!リリスにお手当てしてもらうからね!!』
へへっと笑って、先生が私を呼んだ。
『ミリィ』
「はい」
『思いっきり暴れておいで。ルイスのためにとびっきりの胃薬作っとくから』
「はい」
『あと、昨日のうちに送ってくれてた転移魔法の割り出しも終わってる。転移先は座標送るね』
「ありがとうございます、先生」
『ん。じゃあ僕二度寝するよ、リリスが待ってるからぁ』
「はい。リリス様にもよろしくお伝えください」
『はいはーい。じゃあねー』
ぷつん、と通信が切れた。
ザルヴェーラ、か。つまりあのフードの男は、その一員と考えるのが自然だろう。
「……私はただのコリスですよ」
殿下しか見ていない私なんかを狙っても、面白いことなんて一つもないのにね。
ミリィはおおかみだよー
「……アプリコット、もう一個あげようと思ってたけどやめた」
ごめんなさーい
***
ラザリウス元帥に通信を入れる。
閣下の指輪型の通信機、本当に彫金が美しかったなあ……あれ、誰の仕事なんだろう。機会があったら聞いてみよう。
『……何だ』
「おはようございます閣下、Mです。昨晩はお疲れ様でした」
『あのトンデモ転移陣はなんだ!しばらく平衡感覚が戻らなくて大変だったぞ!』
おお、いきなりご意見を頂戴してしまった。
「申し訳ありません閣下。改良は図っているのですが、ゼロにはできなくて。あれでもかなり良くなったのです」
『まったく……それで、用件は』
「収容施設で使われた転移魔術の転移先がわかりました。やはりハーグレイヴ伯爵家でした」
先生から送られてきた座標を照合した結果、予想通りの場所だった。
『……そうか』
「冒険者はともかく一般人の人質の健康状態が気になります。夜を待たずに突入したいと思うのですが」
『救出は人員が整うまで待ってくれ。……安否の確認のために先んじて潜入するのは止めん。止めても無駄だろうからな』
さすが閣下、よくわかっていらっしゃる。
「わかりました。なるべく早くお願いします。あと、内通者のあぶり出しについてですが、早急に進めていただけますか」
『すでに目星はついている。……罠にかけるさ』
「では、そちらはお任せします。
ところで閣下、ザルヴェーラをご存知ですか」
『……国を潰して回るテロ組織だな』
テロ組織……そうか、テロ組織って認識になるのか。国が消えてるんだもの、間違っていない。
「メルセオン国内での活動形跡があります」
『なんだと!』
「軍との繋がりはわかりません。ですが……」
『言いたいことはわかった。これについては副官を使うぞ』
「もちろんです」
昨日のヴァレーヌ宰相とラザリウス元帥と私の会談の内容については告げないようにお願いしてある。だが、この件に関しては別だ。それに。
「……もし繋がっているとしたら、釣り上げるには格好の餌ですね」
『認めたくないがそうなるな。だが俺は副官を信じている』
「はい。有能な方だと思いますよ」
内通者のあぶり出しまでやっている余裕はない。私の身体はひとつしかないのだ。使えるものは王族でも使う。
あの機敏な副官が敵でも味方でも構わない。私の前に立ち塞がるなら排除する、それだけ。
「では閣下。今日の日没までには全て片付けて突入できるようにしておいてください。頼みましたよ」
『おい!待てミリィ!』
「それでは」
通信を切り息を吐く。俯くと腕輪の魔石がチカチカと点滅していた。
はいはい、カチカチカチ。
「まったく、殿下も心配しすぎ」
白昼堂々この格好で正面から外に出るわけにはいかないから……転移だな。
左腕にはめた腕輪の、主の魔力が満ちた魔石を、右手の親指でなぞる。
私を生かす、唯一の人。
私が生きる、唯一の理由。
「殿下」
早く帰って、紅茶を淹れてさしあげなくては。
腕輪を右手でそっと覆うと、身体全体を殿下の魔力が包み込んだ。
ハーグレイヴ伯爵家の裏手にある森に転移先を定めて、転移魔術を発動した。
本日(2026/02/10)ジャンルをヒューマンドラマからハイファンタジーに変更しました!内容がどんどんファンタジーに寄ってるのにどうして今まで気がつかなかった……!!




