52 色々と盛りすぎ
久しぶりの更新になりました……!数日に一本のペースになるかと思いますがコツコツいきます。
人がいることは期待していない。
今回見たかったのは、転移の痕跡だ。さすがに騎士が入るとしばらく潜入するのは難しいのでこのタイミングになった。少しでも手がかりを探れれば、この後がだいぶ楽になる。
この前潜入した時、入ってすぐは商談ができるような応接フロアになっていた。
今は空っぽ。壁紙も違う。
「あの部屋自体も空間魔法だったのね」
隣の倉庫だった部屋へ入る。空間魔術を展開されている時は三階建て近くまであったが、今は何の変哲もない部屋である。ここにも痕跡は、なし。
「あとは二階ね」
階段を上り、二階へ。あの時はわからなかったが、部屋が二つに分かれていた。
偵察魔道具『赤い貴婦人』を忍び込ませた入口に面した部屋に入ると、中はめちゃくちゃになっていた。
「どういうことかしら、これ」
騎士団の捜索だろうか。それにしては随分と荒れている。
「……」
考えていると、ピコンとスコープが反応した。
ポイントは赤。
「貴婦人!?」
見回すと、天井に止まっていた魔道具が羽音を立てて私の手のひらに乗った。
「良かった無事だったのね。おかえりなさい」
そう声をかけると、貴婦人の鞘翅の星がピカピカと光った。
しかし、おかしい。
この場所なら問題なく、外でも反応は拾えたはず。故障か?いや、妨害するような何かが発されていた可能性がある。
……嫌な予感がする。
「逃げるわよ」
空間の複製はしたから、後で落ち着いてゆっくり解析できる。
今はまず、この建物から離れる。
貴婦人をポケットに入れ、あの日貴婦人をねじ込んだ窓を開ける。中継機はそのまま残っていた。どう見ても虫の卵だものね……。
そっと摘んでこれもポケットへ。後で一緒に解析する。
そのまま窓を全開にすると、窓枠を全力で蹴り飛ばし外に出る。
なるべく建物から距離を取るために、滝壺に飛び込むかのように思いっきりである。
空中で、右足を左足に素早くコツコツと当てる。
ブーツから音もなくウサギの耳のような羽が生え、空気抵抗が和らいだ。
飛ぶためではない。落下を遅らせて滞空時間と距離を稼ぐための風受け機能。こういう時に役に立つんだよな。設計大変だったけどやっぱりつけておいてよかった。
と、背後で吸い込まれるような空気の流れを感じる。
着地と同時に身体を丸めて地面を転がり、身を低く伏せたまま建物を振り返る。
――黒い球体が音もなく建物全てを飲み込んでいた。
「あっっぶな……っ!」
圧縮結界使うとか正気!?
魔法銃のリボルバーを開いて弾倉から二発弾丸を抜き、先生のカプセルに差し替える。そして圧縮結界に向けてぶっ放した。
「……んっ!!」
殿下の火属性マガジンを差した魔法銃は、風属性のカプセルとの相乗効果で桁違いの推進力を生む。
一発目で圧縮結界に穴を開け、二発目で転移魔術のカプセルを撃ち込む。
結界は相殺できなくて良い。少しでも手掛かりが欲しいのだ。
圧縮結界はこんな街中で使われて良い魔法ではない。使用者が限定される禁忌魔法に指定されている。
「……くそっ」
次の弾を仕込もうとしたところで、黒い圧縮結界の玉が収縮した。
ぽとん、と下に何かが落ちる。
……暗闇と静寂が辺りを包む。
ミリィ、だいじょうぶー?
「……まだわからない」
この類の兵器を使ってくる奴は、トラップの重ねがけを平然とやる。落ち着いてすぐに近付くのは危険だ。
そのまましばらく様子を見て、ひとつ息をついた。
「……ひとまず、追撃はなさそうね」
証拠隠滅を図るにしては取る手段が狂気じみている。普通ここまでやるか?
そのままもう数分様子を見て、ゆっくりと立ち上がった。スコープで建物があった跡を見て、完全に活動が停止していることを確認する。
「よし」
結界痕に近付くと、煤けたように黒く汚れたカプセルを拾い上げる。
それなにー
「あの結界の中に撃ち込んだ採取器よ」
結界の痕跡をほんの少しでも採れれば、先生が解析してくれる。
これの解析は私の領分ではない。そもそも無理だし。
「合成魔獣に圧縮結界……盛りすぎよ」
てんこもりー
「……あのクソ不味い胃薬、久しぶりに飲もうかな」
採取器はサンプルを採るとすぐに先生の手元に渡るようになっている。
私が手にしていた採取器も、ほどなく消えた。
「一度、公爵邸に戻るわ。貴婦人たちの解析をして次の動きを決める」
りょうかーい




