51 それをあなたが言うの?
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ヴァレーヌ公爵邸の警備を見る意味でも、この時間の『お散歩』はちょうどいいのだ。近々警備演習をやると約束しているのだから。
ベランダからメガネのスコープ機能で庭の熱源を探る。
この時間はそうよね、仮眠してる人もいるからあまり手厚くはない。
庭を通り抜けるのに認識阻害は使っても良いけど今じゃないなぁ……このまま降りるか。
バルコニーの手すりに手をかけると、そのままひょいと跳び越えて下に降りる。
着地の音はしない。これはトビウサギの素材をふんだんに使ったショートブーツの恩恵でもあるけれど、足音や着地の音を立てない訓練をめちゃくちゃしてきた、その成果でもある。
巡回する警備の気配を感じ取りながら、こちらは気配を殺して庭を横断する。巡回そのものはきちんとしてるんだよな。ちょっと穴があるだけで。
……これ、後で防犯魔道具の録画を見たら警備班長がひっくり返りそうだけど、まあ良いや。そもそもあの人録画を見るか怪しいな。
庭をジグザグに歩きながら塀の近くにたどり着く。塀はこの前の倉庫と同様、波長を出し反射で異常を感知するタイプの防犯魔道具がつけられている。
そうそう、基本的にはこのタイプをつけていれば十分なんです。基本的には。
「その枠に収まらない相手には通用しないんですが」
眼鏡のスコープを起動して波長が出ている向きを確認する。
「……あるねぇ」
穴が。わずかなノイズ。波長同士が重なり合うところは干渉するのだ。そして、
「日常的に干渉しているところは、実際に異常を感知しても人がそれを異常とみなさないことが多い、と」
塀から少し離れ、大きな半円を描いて塀に向かって走っていく。地面を蹴る力が強くなると、ショートブーツの底が淡い緑色に光り、靴底に書かれた魔術式が起動した。
そのまま一気に塀に沿うように走り、思い切り踏み切って、塀を背に向けて波長のスレスレを飛び越える。
そして背中から地面に落ちる前に、ぐるんと身体の向きを変え、塀の外側に着地。少し音が出てしまう着地だったけれど、ブーツのお陰で無音です。さすがトビウサギ素材。
「まずまず、だな。寝不足だから油断は大敵」
ひゅーかっこいいー
「そうだろうそうだろう。リスだからジャンプは得意なのだよ」
ミリィはおおかみー
「だまらっしゃい」
周辺の気配を探る。うん、問題なさそう。
「それではみなさま、良い夢を」
真夜中の城下町は静まり返っている。
とはいっても、朝から街が滞りなく動くために夜働いている人たちもいる。
気配を消して街を歩く。小柄なので声をかけられがちなので、なおさら。
ちなみにぼんやりと認識阻害はかけている。特に武器を見える形で携帯しているので、自衛策であり、気遣いでもある。
「不審者はいないわねぇ」
ミリィがふしんしゃー
「ふふ、その通り」
街道を歩き、商会が入っていた建物にたどり着く。
外壁に取り付けられていた監視魔道具は全て撤去されていた。
おばけやしきみたーい
「それを精霊が言うの?」
扉に慎重に近付き、横からドアノブをひねる。鍵はかかっていない。
罠を仕掛けられている可能性を考えて、まずは少しだけ。……うん、大丈夫そう。
まずは軍の最奥でやったのと同様に、空間複製の魔法箱を入ってすぐのところに置く。
しばらくして終了の合図が鳴ったのを確認すると、サッと手を伸ばして回収。
次に、扉をそのまま全開にし、火属性の魔石のかけらを入れたカプセルを放り込んだ。
あれなにー
「熱感知できるように人の体温と同じくらいの熱を出すの。波長感知だけじゃなくて、熱をトリガーにドカンといく仕掛けがあるから、念のため、ね」
カラカラと魔石がカプセルの中で転がる音が聞こえ、止んだ。
……振動も、何もない。吸い込まれるような沈黙。
だいじょぶそ?
「そうね、少なくとも入った瞬間にドカンはなさそう」
ヘッドバンドにクリップ型の照明魔道具を取り付け、眼鏡の暗視スコープをオンにする。
「髪の毛の中、入って」
はーい
うんしょ、うんしょと精霊が髪の中に潜ったのを確認して、静かに、真っ暗な建物の中へ滑り込んだ。




