50 夜を駆けるコリス
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荷物を置いて、カチカチカチと腕輪の魔石を押して生存信号を送る。
魔方陣のクロスの上に腕輪、そしてマガジン型の魔石を二本置いた。
これは殿下の火属性の魔力を蓄えておくマガジン。大型のホノオグマから採れた魔石だ。
先生にもこれは補充させない。殿下から直接いただくもの。
殿下に今日という断りは入れてないけど、いつものようにちゃんと満たしてくださるだろう。基本的にあの人も魔力を余らせている。
「戦場じゃないからチェストリグは着られないしなぁ……魔法袋に入れるにしても厳選しないと……うーん……」
と武器を見ながらぶつくさ呟いていると、視界の片隅で魔石が赤く輝き始めるのが見えた。殿下が魔力を注いでくださっているのだ。
おそらく既に先生から私の様子は聞いているだろう。
「先生も殿下も心配性だな」
私、たまに失敗はするけど、死なない図太さはあるから大丈夫なのに。
ミリィわいるどだからしんぱいー
「ええー?ワイルドだから心配?それは否定できない……」
魔獣の素材を使った特殊な戦闘服を着込む。これはメルシエ商会の服飾ラインの一人が趣味で作っているものだ。
先生もそうだけど、みんな趣味で作ったものを面白半分で押し付けてくるんだよなあ。お役立ちだから良いんだけど。
短剣の一本に無属性のマガジンを挿す。手のひらサイズの銃のグリップには風属性を。
ズボンの上から投擲ナイフのホルスターをつけ、二本の短剣をさす腰のホルダーを巻く。
ジャケットの内ポケットに魔法銃、そして予備の水属性と無属性のマガジンを仕込み、ズボンのポケットにもあれこれ詰め込み準備をする。
今回はしっかり弾も数を準備する。
私は魔銃弾は使わない。普通に売られている銃弾に、銃のグリップに挿しているマガジンの属性魔法を付与して撃つ。
え?機構?当然特注です。設計は先生にお願いしたけど本気で悲鳴あげてました。天才の頭はこういう場面で使わないと。なんちゃらとシザーは使いようです。
ヘッドバンドで髪をまとめ、眼鏡型の魔道具をかけてスイッチを入れる。……読みが正しければ、偵察魔道具か箱にねじ込んだ発信機、どちらかがそろそろ信号を出すはず。
テーブルの上で光っている腕輪と火属性魔石のマガジンの補充の様子を見ながら、身体を伸ばして準備を整え……ていると、コンコンとゲストルームの扉がノックされた。
「はい」
「私だ。……まだ起きていたのか」
照明を落とし、扉のそばまで移動して、薄くドアを開ける。私の姿はシルエットだけ見えるようにする。
「……それはこちらの台詞ですよヴァレーヌ閣下。早くお休みください」
「出るのか」
「はい。夜のうちに確かめておきたいことがあります」
「……任せて良いのだろうか」
「大丈夫ですよ。万が一失敗したとしても、身元不明の小娘の遺体がひとつ――」
「ミリィ嬢」
窘めるような閣下の声に、肩をすくめた。
「……ふふ、冗談ですよ」
まずそんなことにはならないから。
「無理はするなよ」
「お気遣いありがとうございます。
ヴァレーヌ閣下、明日はおそらく長くなりますので、少しでも身体を横たえてお休みください」
「……ああ」
魔方陣の上で光っていた魔石たちが光を失った。殿下からの魔力の補充が終わったようだ。
二本のマガジンを、ひとつは短剣の一本に、そしてもうひとつは魔法銃に挿す。これらをホルダーに収めて、準備完了。
最後に腕輪を左手首にはめて、カチカチカチと感謝を込めて三回魔石を押す。これから殿下もお休みになるだろう。
バルコニーへ出る扉にかかったカーテンをわずかに開けて外の様子を確認すると、入口の閣下を振り返る。
「扉、閉めていただけますか。このまま出ます」
「わかった。よろしく頼む」
扉が閉まったのを見届けると、窓を開けてそっとバルコニーへ出る。
「ふふ、夜を駆けるのは久しぶり」
よあそびだー
「夜遊びじゃないわよ。仕事。まずは準備運動、ってところかな」
***
私はミリィ。ただのミリィ。
運良く拾われて、変に振り切れた人たちから、思い切り振り切れた教育をぎっちぎちに詰め込まれた結果、大体のことはやればできるようになってしまった、無害なコリスである。




