47 少し考えればわかるのに
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「ハーグレイヴ伯爵家?」
ラザリウス閣下が訝しげな表情を浮かべた。
「ヴァレーヌ公爵家のお世話になる前、数日間使用人として働いておりました」
「なるほど。しかし根拠は」
「あの家の庭には忌避感を覚える波長を出す魔道具が仕掛けられていました。番犬である犬たちが庭に出たがらないほどの。また、邸内にも同じように、精神的に負荷をかける波長、そこから離れたくなるような波長を出す魔道具が、防犯魔道具の中に仕込まれています。
……人を近付けないようにしているその空間は、いざという時に彼らを匿うためのもの。こう考えられませんか」
状況証拠からの推測に過ぎないけれど、実際に取引先として出入りがあるというギルドの情報を踏まえると、あながち的外れではないだろう。
「なるほど。なくはない、な」
「ハーグレイヴ伯爵はそこまで頭が切れる男には見えませんでした。実質家を取り仕切っている伯爵夫人と家令……伯爵家側の主犯はこの二人でしょう。他に協力者がいるかもしれませんが……そこまでは、さすがに」
「ふむ」
「あそこは親子ともども、急に距離を詰めてきた。伯爵と夫人の意思疎通は計れていないということか」
ヴァレーヌ閣下の言葉にこくりとうなずく。
「何を目的として我々に近付いてきたのだろうな。少し考えればこちらにつくメリットがないことなどわかりそうなものだが」
「その少し考えるができないんだろう?」
ラザリウス閣下が鼻で笑った。
「あそこの夫人はうちの妻の茶会にしばしば顔を出すと聞いている」
「なるほど」
「噂を聞いて擦り寄ってきたんだろう。
俺が王位を狙っているって?馬鹿馬鹿しい。そんなわけがないことはオーガストもよくわかっているじゃないか。俺は影から糸を引く方が向いている」
「……ああ。しかし」
なるほど、やはり。
「ボンクラ王太子を上手な傀儡にできるのは、ラザリウス閣下のようですね」
二人のイケオジがこちらを見た。
ミリィこえにでてたー
「あ、ごめんなさい。声に出てましたか?」
てへぺろ。
「それは言ってくれるなよミリィ嬢」
ヴァレーヌ閣下ががっくりとうなだれた。
「ははは!直球が過ぎるんじゃないかミリィ」
ラザリウス閣下はご機嫌である。
「大変失礼いたしました。
しかし、お話を伺っているとどうも軍の方に内通者、それも力がある人物がいる可能性が濃厚ではないかと思いますね」
「……ああ、そのようだ」
ラザリウス……元帥閣下の声がわずかに沈んだ。
「軍幹部の誰かになるだろうな。下手すると複数かもしれん」
「閣下は直接動かせる部隊をお持ちですか」
「残念ながら部隊は持っていない。俺の副官が代わりに動く」
「ああ、馭者をなさっていたあの方でしょうか」
「……そうだ」
そうよね、あの軽やかなフットワークは、かなりできる人のはず。
「彼には、先ほど軍本部に着いた後のことは」
「……誤魔化したさ。君は面倒ごとに巻き込まれる前に転移で逃げたと伝えたよ」
「彼は信頼できますか」
「ああ」
「わかりました。では副官の彼にもここでの話は一切伏せてください」
閣下が、わずかに目を細めた。
「一応、理由を聞こうか」
「彼を副官としてラザリウス閣下のそばに置き続けるため、と言えば伝わりますか?」
腹心が裏切り者という可能性も、十分に有り得るのだ。その可能性を潰すため……のように聞こえるが、早い話があぶり出しだ。それはラザリウス閣下もわかっているだろう。
「……わかった。その分君には負担をかけるが、よろしく頼む」
「問題ありません。一戦交える可能性はありますが、……まあ、叩き直して差し上げてください」
私が勝つので、とは口には出さない。確定事項だから。
もしも負けるようなことがあれば、私は『ルイス=ソルヴィアンの懐刀』の二つ名を返上しなくてはならない。
「さすがに私も分身はできないのでどちらかを優先しなければなりません。優先順位としては人質の救出で良いですよね?」
二人の顔を確認すると、迷わずうなずきが返ってきた。無事かはわからないとはいえ、道義的にこちらを優先せざるを得ないだろう。
「はい。ですので救出準備を整えた状態で、巡回しながら発信機の信号受信を待ちます。発見次第、私が突破口を作りますので、騎士団の方々には人質救出をお願いします。
必ずヴァレーヌ閣下が直接指示を出してください。あと、内々ではなく、必ず第三者の耳に入るように」
「わかった」
「ハーグレイヴ伯爵家は少し泳がせることになるかもしれません。ヴァレーヌ閣下もラザリウス閣下も、不自然にならない程度に情報を集めて共有していただけると助かります」
「ああ」
「承知した」
国を超えた転移は原則許可制だ。特に人の行き来に関しては厳しいから、メルセオン国内からは出ていないはず。
「ラザリウス閣下、軍はどの程度動かせますか」
「ハーグレイヴ伯爵邸の規模なら、小隊を二つ、周囲の警戒や包囲も含めると三つだな」
「ヴァレーヌ閣下、以前お渡ししたマルセラ=ハーグレイヴ嬢の証言、調査は進んでますか」
「……まだ手をつけた段階だと思う。調査はマーセンに任せている」
「そうですか。あれは伯爵邸に乗り込むためのきっかけにするためにお渡ししているので、調査を急ぐか……でっち上げちゃいましょうか」




