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殿下の子飼いは無害なコリス  作者: アカツキユイ


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46 コリスで売っております

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 執務室に戻り、新しく紅茶を淹れる。

「人質の救出を考えるとあまり時間がありません。良い胃薬は先ほどできたてを仕入れましたので、ちょっと今晩は気張ってください」


「できたての胃薬……あのよく効く薬はまさか」

「はい、イオルム様のお薬になります」


「そんなによく効くのか」

 ラザリウス閣下が興味深そうに尋ねてくる。

「はい、吐きそうになるほど不味いですが、吐きませんしよく効きます」

「まるでとんちだな」

 ははっ、とラザリウス閣下が笑った。



「さて、ミリィ……嬢」

 ああ、さっき先生ににらまれまのが効いてるな。

「ミリィと。私がそう呼んでくださいとお願いしたのですから」

「なんだそれは、私はミリィと呼んではいけないのか」

 ヴァレーヌ閣下が拗ねたような声を上げた。


「ええと、閣下のお邸でお世話になっていることもありますし、あまり男女の仲を疑わせるような近しい距離をヴァレーヌ家の中で感じさせるのはよろしくないかという配慮、だったのですが……汲んでいただけませんか?」

 きゅるん。


「……ぐぬ、それもそうだ……」

 ヴァレーヌ閣下がうなると、今のやり取りを見ていたラザリウス閣下が愉快そうに笑い声を上げた。

「ははは、とんでもないな君は!これがさっき馬車の中で俺に色目を使った女狐か!」


 むむ、女狐とは失礼な。

「コリスで売っておりますので、パブリックイメージの維持にはご協力いただきたく」

「ははは、わかったわかった」

 ひとしきり笑った後、ラザリウス閣下が前のめりになり、声を一段低くさせた。


「……して、ミリィ。どう動く」



「まず、今回の合成魔獣の転移は私が昨日商会に入ったことが原因と考えて間違いないでしょう。

 認識阻害は最高出力で使っていたので私の記録は残っていないはずですが、誰かに()()()()な在庫を見られた可能性を見越し、急いで次の手を打ちに出た。これは十分に考えられます」

 しかもそれがファクトリアに合成魔獣を送りつける、だなんて、嫌がらせにしては度が過ぎている。……いや、メルセオンを手っ取り早く潰しにかかった可能性もある。


「うむ」

「……確かにな」

「信号発信タイプの小型魔道具を仕込んできました。彼らが荷物を外に出せば、検知できます」


 魔方陣が描かれた小さな板――魔法盤(マジックディスク)をテーブルにコトリと置く。

「検知系魔道具の読み取り部にこれを乗せていただければ、私がいなくても場所はわかります。ただし、使えるのは一度限りです」

 魔法盤は再利用できる。カプセルは回収できれば再利用できる。回収?まず無理だ。


「しかし魔法袋(マジックバッグ)にしまったのだろう?」

「……少し見えただけですが、使用している魔法袋は、長時間の利用ができない製品でした。どこかでまた中身を広げる必要があるはずです。使用回数も制限があります」


 そう、あの魔法袋は容量は多いが、長時間入れたままにしていると中に入れていたものが急激に劣化する。しかも数回しか使えない。普及品はそんなものなのだ、私が持たされているヨルム印(せんせい)の魔法袋がいかに異質かおわかりいただけただろうか。


「あと、もうひとつ違う類の魔道具を残しています。現在反応がないので破損している可能性はありますが、こちらは熱感知ができるので、人間が近くにいれば反応します。それが商会の人間か、人質かは蓋を開けてみないとわかりません」

「……なるほど……」


「確認なんだがミリィ」

「はい」

「この状況、君なら攻めるか?」


「攻めます」

 迷う理由がない。即答する。

「私単独で、という前提になりますが。今回は特に民間人の人命がかかっていることが予想されるので、いざとなれば手段は選びません。犯人はなるべく生け捕りにはしますが……万が一もあります」


「……うむ」

「あと、私は今()()()()()()なので、誰の後ろ盾もありません。自由に動けますが、リスクも大きい。

 お二人がのご指示があればその通りにしましょう。私はあくまで()です。それ以上でもそれ以下でもない」


 駒じゃないと先生に言われたばかりだが、あえてここでは駒だと言おう。……じゃじゃ馬だけど。

「……ご迷惑はおかけしないように、最大限努めます」


 人質の救出と内通者のあぶり出し。

 あと、潜伏場所――



「彼らの潜伏先になりうる場所に、ひとつ心当たりがあります。……あくまで、可能性ですが」


 私の言葉に、閣下二人の表情が曇った。

「それはどこだ」

「ハーグレイヴ伯爵家です」

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