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殿下の子飼いは無害なコリス  作者: アカツキユイ


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45 かしこまりました

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

「あの基盤の処置はよくできてた。よく持ってたね、ハイグレードなインク」

「現場で急に改造しないといけないこともあるので持ち歩いてるんですよ」

「なるほど、いい判断だ」


 ゲストルームに入ると、先生は中から結界を張った。つまりこの先はここだけの話。


「ルイスから胃薬と睡眠香の注文が来たけど、そういうこと?」

「……はい。今は独断で動いています」

「そう。ちゃんと生存報告はしてあげてね。げっそりしてるんだから、ルイス」

「はい」

 そうだ、また忘れてた。腕輪の魔石をカチカチカチ、これでよし。



「あと、そっちの国王の話だ。ルイスへの納品ついでに、久しぶりに診てきた」

「ありがとうございます」

「急に毒素を全て抜くと逆に良くないから、少しにしたよ。あとは毒素を集める仕掛けをしてきた。ヘッドボードの下に魔石の細石を詰めた小瓶を置いてある。溜まってきたら交換して」

「わかりました」


「王妃には会ってないよ。めんどくさいことしか言わないもん」

「それが正解です」

「ルイスも国王も、だいぶしっかり積み上げてきてると思う。ルイスが自分の妃を手にかけた、あの時の二の舞にならないように」

「……はい」


「耳タコどころかイソギンチャクだって言いそうだけど、あえて言うよ。君はルイスの命を握っている。大げさじゃなく。

 ミリィは駒じゃない。僕やリリスにとっても、ルイスにとっても、かけがえのない大切な女の子だ」

「……わかりました」


「わかってもすぐ忘れるから、そのうちまた言うよ?耳からイソギンチャク生やしてもらうからね」

「嫌ですよ気持ち悪い」


 スベリンゴを魔法袋から出すと、先生が目の前に浮かべながら状態を確認する。

「うーんフレッシュ!これは良い自白剤ができそう。そうだミリィ、スパイスの話、たぶん君の読みで合ってると思う。いくつか試して。ディアマンタ(ディディ)も販売先を気にしてみるって言ってた」

「はい」


「あと、マガジンに魔力の補充するから出して」

「はい」


 インゴット状の魔石は、大型魔獣から採れた魔石をそのまま切り出しているものもあれば、魔石粉を固めて作ったものもある。大きさは全て揃っている。これは、切り出してくださる魔石師、チルギ様の技量がすごいのだ。

 ヨランド様のパートナーであるチルギ様は、私にもとてもよくしてくださる。しかしお酒が入ると、髪型と体型がヨランド様に似ている私を「ちびヨランド」と言って頭をワシワシしてくる。これだけは面倒だ。



 マガジンと呼んでいる魔石たちを全てポーチから取り出し、テーブルの上に敷いたクロスの上に並べた。

 先生がその上から手をかざし、魔力で満たしていく。他の魔力で満タンだったものも、どういう仕組みかは知らないが先生の魔力に入れ替えられていく。

 メルシエ商会で補充するより圧倒的に速いし質も良いから、今やってもらえて助かった。


「ないとは思うけど、ヒビが入ったり欠けたりしたらすぐに連絡してね。すぐに使えなくなることはないけど、危ないから」

「はい」



「ああ、あとこれ」

 先生が両手を器のようにすると、小さなカプセルがこんもりと現れた。

「次の試作品!試したらフィードバックよろしくぅ」

「……またスパイごっこのおもちゃ作ってるんですか?」

「もちろんだよー!スパイは夢があるからね!本職がいるなら実地で使ってもらって、それをおもちゃのレベルまで落とし込む、これが一番リアリティあるじゃん?」


「はいはい」

 漏斗のように下が開いた先生の手から落ちるカプセルを、自分の手の器で受け止める。

「たまに街で遊んでる子を見かけますからね。楽しい新作を提供できるように協力しましょう」

「よろしくねぇ」




「……ん、そんなとこかな」

 カプセルを魔法袋にしまう私を見て、先生がにこりと笑った。

「じゃあ僕はもう一度あの二人を見たら戻ろう。

 ミリィ、さっき僕が言ったことはなんだった?」

「マガジンが破損したら即連絡」

「それもそうだけど違う」


「……私は駒ではありません。命大事に」


「よろしい」

 先生が私の前髪を右手で上にあげ、額を露わにさせた。

「……僕たちの可愛い子。どうぞ幸せがありますように」


 先生が身をかがめ、私の額にそっと唇を押し当てた。

 私の身体が淡く水色の光をまとう。


「おまじない、終わり」

 にっこりと微笑んだ先生の顔を見て深くため息をつく。

「ありがとうございます。でも、先生がやると魔女の祝福を通り越して神のご加護なんですよコレ」

「うふふ。じゃあ、行こっか」



 執務室に戻ると、ヴァレーヌ宰相閣下とラザリウス元帥閣下は目をわずかに赤くして先生を待っていた。

「ありがとうございました蛇眼の賢者様、いただきました助言、胸に刻みます」


「次にお会いできる機会を、楽しみにしております、イオルム殿下」

 ラザリウス閣下の言葉に、ん?と先生が首をかしげた。

「あんまり僕は表に出ないけど、そんな日来るかな?」

「再来月の国際軍事会議に、ご出席されると伺っていますが」

「あーーあったねそんな話!にこにこーってして適当なことしか言わないかもしれないけどごめんね!」

 ぽん、とラザリウス閣下の肩を叩いて、先生はこう続けた。


「……友達は大切に。なくしてから気付いたんでは、遅いからね」

 ラザリウス閣下がハッとして先生を見た。そして、力強くうなずいた。

「わかりました」



「んーじゃ僕帰るね。せっかくだからテストも兼ねて転移箱使って帰るよ。ミリィ、あとは頑張ってね。ご主人様の寝不足を解消してあげられるのはミリィだけだ。早く帰るんだよ」

「はい」


 転移箱の扉を開き、中に入る前に先生が振り返った。

「みんな、最善を尽くしてね。じゃあ」



 静かに転移箱の扉が閉まる。ほどなくして、外装の魔石が輝き出し、光が彫り込まれた蔦の模様まで包み込んだ。


「綺麗……」


 光が強くなると、転移箱が小さくカタンと音を立てた。光が少しずつ弱まり、転移が終わったことを伝えてくる。


「輝いていたな」

「……ああ」

「もう少し足掻くか、オーガスト」

「……そうだな」


 気配を消して壁際に立っていた私を、二人の男が振り返った。


「力を貸してくれるか、ミリィ嬢」


 右手を身体に添え、左手を後ろに引く。

 ……二人の決意に応えるように、視線だけを伏せて礼を深くした。

「かしこまりました」

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