43 蛇眼の賢者
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「んーふふー、ミリィのお茶久しぶりで楽しみぃ」
蛇眼をしまい、ウキウキとしている先生の目の前で、ヴァレーヌ閣下とラザリウス閣下が縮こまっているように見える。まるで先生に叱られる生徒のようだ。あながち間違ってはいない気はするが。
「ああそうだミリィ」
そんな先生の気配から急にホワホワ成分が消えた。
「はい」
「合成魔獣、ファクトリアに転移してきて、暴れそうになってたから、捕まえといた」
「は!!?」
さすがにそれは聞いていない。茶葉を何杯入れたか頭から飛んでしまった。
「……あ」
「今のが三杯目」
「……ありがとうございます、先生」
四人だから、あと二杯、と。
「……ここの件も本当だったら僕が出る予定じゃなかったんだけど、合成魔獣が出てきちゃったからさすがに看過できなくてね」
先生に真っ先に紅茶を出す。これはもう絶対だ。年齢的には先生の方が二人の閣下より若く見えるが、実年齢は良い勝負か先生の方が年上のはずだ。少し?だいぶ?そこの言及はやめよう。
「ファクトリアから異常転移の予兆があるって連絡もらったから張ってたの。そしたら出てきたのが合成魔獣で、しかも転移元を割り出したらメルセオンだったから、あーこれはミリィの件だ、って。
大丈夫、ファクトリアはどこの連盟にも非加盟だ。僕が全部処理するって丸ごと引き上げてきた」
「……ありがとうございます」
「も、申し訳ありません『蛇眼の賢者』イオルム様、全く何のことだか私にはわからないのですが」
ヴァレーヌ閣下が勇気を出して切り込んだ。おお、すごいなガッツある。
ヴァレーヌ閣下とラザリウス閣下にも紅茶を出し、最後に自分の分をテーブルに置いて席についた。
「すみません先生、お二人がお持ちの情報にばらつきがあります」
「あーそうなの?まあ僕もメルセオンの内情はほとんど知らないからね。知るつもりもないし」
先生が私の紅茶で喉を潤す。
「うん、美味しい。相変わらず、リリスの次に美味しいね」
「ありがとうございます」
惚気のようだが事実だ。リリス様が淹れてくださる紅茶は私のそれより美味しい。
「なるほどばらつきがある……か。じゃあ端的に伝えよう。
ファクトリアに合成魔獣が現れた。合成魔獣は僕が捕まえた。ファクトリアには一切を僕が引き取ると伝えているから、ファクトリアはこれの出所も知らない。だからどこの国も合成魔獣を理由にファクトリアから攻め込まれる心配はない。ここまで良い?」
私は大丈夫だ。
閣下お二人を見るとコクコクコクとまるで機械人形のようにうなずいている。まあわかっていなくても後で私が補足すれば良い。
「じゃあ続けるね。合成魔獣の転移元を調べたら、メルセオンの軍事収容所の地下牢だった」
その言葉にヴァレーヌ閣下がキッと顔を上げてラザリウス閣下を見た。そういうところです、宰相閣下。
「……昨日私がヴァレーヌ閣下にお伝えした『捕えた人間たちが騎士団のすぐ近くにいるのに気付かない』という商会の男たちの会話。
これを元に、私が収容所を探した際に痕跡を見つけて元帥閣下に報告しています。つい一刻ほど前です。
ラザリウス閣下は合成魔獣はもとより、商会の人質が軍の収容所にいることもご存じありませんでした」
私の言葉に、ラザリウス元帥閣下が続いた。
「騎士団からの人質捜索協力の依頼などもなかった。これはミリィ嬢から報告を受けた後、軍部内の履歴を確認している」
「……な……」
先生をチラリと見ると、ティーカップを片手にニコニコしている。……この人、授業参観か何かの気分でいるんじゃないだろうか。
「ミリィ嬢から指摘があった内通者。これがいることは間違いないと俺は踏んでいる。そしてうちだけじゃない、オーガスト、おそらくそちらにもいる」
あ、ヴァレーヌ閣下ってお名前オーガストっていうんだ、今初めて知った。
……というか先生もこの二人に自己紹介くらいさせてあげれば良いのに、まあ国際問題に関わらない以上、知らないでいた方が楽なんだろうけど。
「ガレル」
へぇ、ラザリウス閣下の名前はガレルなんだ!っぽい!わかる!!
「……分断はあるあるだからねぇ……パッと見る感じ、宰相くんの方が乗せられやすい感じがするかな?」
先生、痛いところを突きなさった。ヴァレーヌ閣下が口をはくはくさせている。事実だから仕方ない。
先生がチラリとドアに視線をやり、そして目を細めた。うっすら瞳が光ったように見える。
「興った国が永遠に在り続ける保証はない。それは君たちもよくわかっているだろう。様々な要素が絡まり合って、国はできている。
『この国は盤石だ』なんて言うやつは国というものがいかに繊細にできているかをわかっちゃいない」
王族が言うと説得力が違う。閣下二人もそれはわかっているのだろう、ごくりと固唾を飲んだ。お互いがそろそろと目を合わせ、すぐに逸らす。
……そう、そういうところなんですよ、御二方。
「メルセオンの王家が真っ当かは知らないよ?仮に真っ当じゃないとして、それを何とかして真っ当に戻そうとするか、真っ当にするためにぶった斬るか、そんな強い覚悟を持った臣下がそばにいて欲しいと僕は思うねぇ」
「……」
二人は黙ったまま、返事をしない。いや、できないという方が正しいのだろう。
「僕のアドバイスはそんなところ。ああ、あと、可愛い娘にかっこいいとこ見せるためにおまけがある」
先生がヴァレーヌ閣下に目を向けた。
「見せて、転移箱。僕が治すことになったから」
イオルムは生まれつき蛇眼持ちだったわけではなく、リリスへの愛が溢れまくった結果そうなっています。その辺の過程が気になる方は、下にリンクがあります「君のために僕は人を捨てた(きみすて)」をお読みください。
すみませんこういうの多くて、世界観が本当にひとつながりでして(陳謝)




