42 まさか来るとは思わなかった
ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!
話の区切り的にいつもより少し短めです。
「王位を欲してはいない、ラザリウス閣下はそう私に言いました」
「……」
「国を救うために、力を貸して欲しいと言いました」
「……それは、政変を起こすということではないのか」
「この言葉の真意を確かめるべきなのは、私ではなく、ヴァレーヌ宰相閣下、あなたなのではないですか」
いや、ほんとさ、仲直りというか調停で間に入るのってめちゃくちゃ大変なわけ。
誰かにお金を請求したい。
「……」
「差し出がましいことを申し上げているのは重々承知しております。
しかし、そうも言っていられない状況となりまして。詳細は全員揃った場でお話したいのですが、ヴァレーヌ宰相閣下、こちらにラザリウス元帥閣下をお招きいただいてもよろしいですか」
「……」
ヴァレーヌ宰相は俯き黙ったまま動かない。
早めに決めていただかないと、色々とまずいんですけどね。
とりあえずラザリウス閣下に一報入れるかな……と考えていると、イヤーカフが熱を持った。元帥閣下だろうか。ソファから立ち上がり、壁の近くに場所を移して応答する。
「……ミリィです」
『はいはーい、先生でーす』
そうか、あの箱を使ったから、先生から連絡が来る可能性をすっかり忘れていた。
「先生、すみませんちょっと立て込んでいて」
『うん、そんなことだろうと思った。今から行くから』
「……え?」
『今、行くから』
「ちょっ……せ!先生!?」
ぷつん、と通信が切れると同時に、執務室の空気が一気に冷え込む。
「何だ!?」
ヴァレーヌ閣下が異変に気づいて顔を上げた。
窓際の空間にシュルリと水の球が生まれる。
小指の先ほどの球がみるみる大きくなり、両腕で抱えきれないほどになると、パキパキと音を立てて凍る。
――まるで、大きな氷の花が咲くように。
きれいだねぇ
「……ほんとにね」
まったく、普通に転移して来てくださいよ、先生。
花がパリンと割れると、我が養父であり師でもある、イオルム様がそこにいた。
サラリとした青い髪を揺らし、程よく鍛えられた体躯の男がゆっくりと顔を上げ、その白金の目を開く。
とろけそうな垂れ目と、不釣り合いな縦長に裂けた瞳孔を持つ眼。
限りなくアンバランスな中に成立した美。それがイオルム=ウルフェルグという男である。
ぱちぱちと瞬きをすると、私の方を見てにっこりと微笑んだ。
それはもう、にっっっこりと。
そして静かに私の前に立ち、
「わあああミリィ久しぶりぃ会いたかったあああ!!」
と大声を上げながら抱きついてきた。
これである。毎回が生き別れの親子、感動の再会。
「……っせんせ、苦しい……っ」
ぎゅむぎゅむと抱きしめられ、ようやく解放される。はあ……窒息するかと思った。
「ふふ、元気そうで何よりだ、ミリィ」
「……っ、先生ぇも、お元気そうで……っ」
ゲホゲホとむせながら返すと、先生が背中をさすってくれた。さするくらいなら初めから加減してくれ。
「まさか、この御方は……」
ヴァレーヌ宰相の言葉に顔を上げると、先生は口の端だけで小さく微笑んだ。
「役者が揃ってないよね?先にそっちを呼ぼう。ミリィ」
「はいはい、わかりました。転移の記録を残したくなくて私の転移陣の敷物を使おうと思ってたんで、召喚、おまかせしていいですか」
「オッケー。じゃあ、繋いで?」
先生にこくりとうなずくと、ラザリウス元帥閣下に発信をする。
『……私だ』
「ミリィです。すみません、ひとつ確認ですが、今、服は着ていらっしゃいますか?」
『……は?』
「着てますか」
『着ているが……』
それなら問題ない。あられもない姿だと困る、それだけのための確認だ。
「ありがとうございます。転移ではなく、お喚びします」
『な、待て、喚ぶ?どういう……』
「……ふふ、みぃつけた」
先生がペロリと舌なめずりをした。
「おいで、大事な話をしよう」
その左手をくいと捻ると。
先生の目の前の床がごぽごぽと水場のように音を立て、へたりこんだラザリウス元帥が湧いて出たように姿を現した。
「やぁ、急にごめんね。僕はイオルム」
呆然としていたラザリウス元帥が、先生の声にハッと顔を上げた。
「い……イオルム、まさか……」
「んー、どのまさかなのかわかんないけど、たぶんそれで合ってるよ。めんどくさいことに首は突っ込まないから君らの名乗りはいらない。いやあ、ちゃんと服を着ててくれて良かったなぁ」
「申し訳ありません、ラザリウス閣下。もう少し穏やかにお呼びするつもりだったのですが」
先生の背後から元帥閣下に声をかけると、こちらに視線を漂わせた。
「み、ミリィ……嬢……」
嬢、と付け足したのは、おそらく閣下が私を呼び捨てにしようとしたのを察した先生が冷気か何かを発したからだろう。困った養親だ。
「大変申し訳ないのですが時間がありません。紅茶をお淹れしますのでお掛けいただけますか。
……ああ、もちろん先生も」
わーイオルムだー
「てへ、来ちゃった♪」
イオルムは精霊魔法で生ハムを作るような男です。「君のために僕は人を捨てた(きみすて)」でお読みいただけますので、ご興味をもっていただけた方は是非。あとがきの下に関連作品リンクがあります。




