40 するりするする最奥へ
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そうこう話している間に、馬車は軍本部へ到着した。
「収容棟は左に見える建物だ」
「わかりました。閣下、通信魔道具はお持ちですか?」
「ここに」
幅広の指輪型。魔石はないが魔術回路が模様のように彫金されている。これも良い仕事だなあ。
イヤーカフを外して指輪に近付けると、淡く二つが共鳴して光を放った。
「閣下はそのままお部屋へお戻りください。そこから、牢の見回りを思いついたように指示していただけますか」
「……なるほど、わかった」
イヤーカフを耳につけて、認識阻害のうち視覚阻害をオンにする。
きちんと姿が見えなくなったのだろう、ラザリウス閣下が目を見開いた。
「……この指輪は隠密魔法も感知するのだが、それに引っかからないとは」
「世界最高の魔道具師の作品です」
先生の魔道具は芸術性ではメルグリス様に劣るが、発想と技術、あとは突飛さにおいては誰にも負けていない。
ああ、これも確認しておこう。事後でも問題ないとは思うが、今のうちに。
「トップと思しき男は魔法銃を所持していました。発砲許可も念のためいただけますか」
「……良かろう」
軍部で部外者が発砲したとなれば一大事だ。特に今の私は「ただのミリィ」。叩ける石橋は極力丁寧に叩く。
「ありがとうございます。では」
馭者がドアを開けると同時に外に飛び出す。外にいる人は多くない。一気に収容棟まで駆け抜ける。
おっと、軍用犬がいた。気配と匂いでこちらに気付いて吠え始める。
そうそう、番犬はこうでなくっちゃ。
「失礼」
思い切り地面を蹴って踏み切ると、犬たちの上をひらりと飛び越える。
ミリィかっこいー
今の衝撃で精霊が髪の毛から落ちそうになっている。
「しっかり入っててね」
乱暴に髪の中に押し込むと、次に見えてきたのは雷魔法の防護柵だ。しかも可変式、面倒くさい。
走る速度は落とさずに、その一瞬を狙ってスライディングで潜り抜ける。砂埃が多少立ってしまったがこれはもう仕方ない。
その後も軽快に柵を飛び越え、障害を潜り、収容棟の通用口にたどり着いた。
イヤーカフから通信を送る。
「こちら、コードM。収容棟通用口へ到達。これより中へ入る」
『了解。牢の巡回指示は出した。最奥までの到達は約十五分』
十五分!時間短いな。あの狸親父、嫌がらせか!?
「了解」
『構造自体はよくある牢屋だ。警備は厳重のはずだが君には造作もなかろう』
お前の腕を見てやろうと、そういうことか。
「からかいすぎましたか?」
『いささかな』
通用口には兵士が二名。うん、よく鍛えられている。
認識阻害をかけているので、そのまま堂々と間をすり抜け、ドアをコツン、と叩く。
「ん?」
もう一度、コツン。
「石でも当たったか?」
「いや、風もないだろう」
数秒おいて、もう一度。コツン。
「……開けてみるか。後ろを頼む」
「わかった」
一人がドアノブに手をかけ、もう一人が後方で警戒。
ドアを開けて中を覗き込んだその隙間から、スルリと中に入り込んだ。
きちんと軍が仕事をする、という前提で、最奥まで十五分。それならば。
「一番奥まで一直線だな」
足音を立てず、風も起こさず。静かに歩みを進めていく。
あまり収容されていない……すぐに処刑されるのだろうか、それとも刑務作業中か。
地下四階か。結構深いな。
十五分で巡回が終わる……四、五人はこれに当てているか。
階段は常時監視で感応式の魔道具ではなさそうだ。軽く踏み切り飛び降りる。
ひゅーん
そして、下の踊り場に着地。
すとーん
遊べる場所では遊んでおきましょう。サクサクと最深部まで降りると、厳重に魔法錠がかかった入口に辿り着いた。
「……ネビュラ製か……面倒だな」
ネビュラ・コードはカイメル連邦にある情報機器メーカーだ。防犯設備にも明るく、こうした軍事用の設備も扱っている。
「へっへっへ、こういう時こそミリィちゃんの真価が発揮されるのでぇす」
み、ミリィ……?
監視魔道具に写り込まないように背を向け、ずっとつけていたヘアピンを抜くと、ポーチに入れていた解析機に差し込む。
ヘアピンの魔石が静かに光った。
私は魔力がほとんどない。
そのため、生体照合に魔力を使うこういった設備では、他人の魔力……厳密にはその波長をお借りするのである。
「元帥の魔力サンプルを採るだけのつもりが、お役立ちぃ」
ぺたりとコードを魔法錠のパッドに貼り付ける。
今日採取した魔力データと、解錠可能な魔力データを照合して……と。
「これこれぇ」
やはり通用口にいた二人にはアクセス権がしっかりあった。お借りしまぁす。
サンプルから作った擬似的な魔力波をヘアピンに読み込ませ、髪につける。身体をピリッとした軽い刺激が走った。
ペロリと舌なめずりをする。
「失礼しまぁす」
そもそも監視魔道具に私は映り込まないが、何食わぬ顔をして魔法錠に触れる。錠は、実にあっけなく開いた。
「こちらコードM、最深部に到達」
『……は?もう着いたのか?』
「解錠も完了、中に入ります」
『いや、ちょっと待てミリィ』
「ふふ、お眼鏡にはかないそうですか?閣下」
返事は聞くまでもない。これでかなわないと言うならとっとと私を殿下の元に帰して他のやつを呼んでくれ。
最深部は、部屋ごとにしっかり魔法錠がかかっている。ああ、国際指名手配されてるはずの顔がここにいる、ということは……元帥閣下、これを使う気か。なかなか腹黒い。
ゆっくりと足を進めていく。途中から、古い石の牢に変わった。ここから先が、さっき話していた使ってないエリアということか。
一室一室を確認し……
……壁をえぐり取った大きな爪痕が目に入り足を止める。
これは、まずい。
「閣下、中止です。すぐに巡回兵を引き上げてください」
『どうした』
「……合成魔獣がいた痕跡があります」
ミリィがおかしくなっちゃったぁ
と精霊ちゃんがお嘆きでいらっしゃいます……(ミリィちゃん女優なので)




