04 普通の冒険者、ですよ?
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街に戻って、まずギルドへ納品に向かう……前に。
「うーん、たぶんこのままだと、鮮度が良すぎる」
そうなのだ、先生特製の魔法袋に入っていたスベリンゴは抜群に状態が良い。これをこのまま持って行くと色々と面倒くさい。
一度宿のドミトリーに戻る。最奥に縄張りを広げる主はまだ眠っていた。気配を消したまま作業すれば起こすことはないだろう。
斡旋所にも顔を出すのでシャワーを浴びる。次に着る服は斡旋所で貴族や使用人に見られても悪印象を与えないものを選んだ。
ベッドの上で、袋の中のスベリンゴを全て出す。依頼の納品数は三十。……手元にあるのは七十。半分は再度魔法袋の中にしまった。
出したままの分は、少しずつ鮮度が落ちていく。それでも驚かれるほど状態が良いことは間違いない。
ぴかぴかだねー
精霊に対し、言葉は返さずこくりとうなずく。お店を広げた状態で、ドミトリーの主を起こしたくない。
――この依頼は匿名だった。
三十必要ということは、何かを作る。そして、正規販売するために飴などに加工するのであれば匿名にする理由はない。
しかしこれがまた、上位ランクの冒険者主催の宴会で余興として使われる……なんてオチもあったりするからわからない。実際にスベリンゴを使った大暴露大会が過去に開かれたことがあるのだ。これはニュースになったから割と有名な話。
まあ違法な取引をしたわけではないんだけど……主催の冒険者はランク降格処分になっている。
いま目の前で鮮度を落としている分をとりあえず全部納品しよう。鮮度と状態の良さ、そして納品数……何かあれば食いつくはずだ。
さて、そろそろ良いだろう。あとはギルドに運ぶ間にほどよく傷んでくれるはず。
空にしたリュックにスベリンゴを詰め、小さくよいしょと口にしながら背負う。
「よし」
夜ご飯を食べる前にひとっ風呂浴びたい。最速で片付ける。
そう意気込んで宿を出たが、この目論見は冒険者ギルドで早くも外れることとなった。
***
はて。なぜ私は到着早々ギルドマスターに呼ばれて応接室にいるのだろう。
まだスベリンゴを出してすらいないのに。
「……あの、どういったご用件でしょうか?」
標準的な冒険者のオーラを出しつつ、こてんと首をかしげてみせる。
見た目は若いが実年齢はそこそこありそうなギルドマスターは、そんなあざとい芝居をした私をまじまじと見て特大のため息をついた。
「普通に見ると本当に目立たないな、お前。……いや、ルイス=ソルヴィアンの小リスさんよ」
ちっ、内心で舌打ちする。実際すると怒られるけれど、心でする舌打ちは自由だ。
「なんの、ことでしょう?私はただの冒険者ですよ?」
「はーー、すっとぼけるか、まあすっとぼけるよなわかるわかる。でもギルドカードのあの記録で『ただ』はねえだろ『ただ』は!!」
ふっと小さく笑い、それらしく足を組んでみせる。ちなみに普段は足は組まない。
「……気付かない人は気付かないのですよ。あなたは気付ける人だったようですね。カイリさん」
テーブルに出された紅茶を飲むと、ギルドマスターであるカイリという男は「そりゃあとっくにうちのギルドも調査済みだよな」と乱暴に頭をかいた。
「もっぱらの噂だぜ、自国の中規模ギルド、ひとつぶっ潰したって」
「潰しただなんて人聞きの悪い。明らかな違反があったので殿下が認可を取り消しただけです」
「はーーさすが小リスさんだな。忠犬よりも噛みつき方がエグい」
「そのためにあごを鍛えていますので」
私の返しを受けてカイリさんは更に大きなため息をひとつ吐いた。
「……これは国をまたいで噂になるわけだ。とんでもねえ嬢ちゃんだな。
で、わかっててスベリンゴ納品受けたんだろあんた。出してくれよ」
「この場でよろしいですか?ご存知かと思いますが傷みが早いので凍らせる処置などしたほうが良いかと思いますよ」
「どこまで本気なんだかわからねえ女だな……鮮度はこっちで落としてから納めるから心配すんな」
「あら、そうなんですか?数年前に開催されたという『ドキッ☆真夏のスベリンゴ大暴露大会』を再び開催なさるのかと思ったんですが」
「んなわけあるか!!知ってるか!?スベリンゴ食べて披露したネタが滑ると恥ずかし過ぎて死にたくなるんだぞ!!
……って、何の話してんだ俺は。とにかく出してくれ」
さすがスベリンゴの出荷量世界一。滑り方がプロだ。
「わかりました。ではこちらで」
リュックの中からまずはクロスを取り出しテーブルに敷くと、スベリンゴをクロスの上に並べていく。直にテーブルの上に置くと転がってしまうのだ。滑るだけに。
次々と並べられていくスベリンゴを見て、カイリさんはため息をひとつ、ふたつ、みっつ……終いには「はああああ……」と大きな声が出た。
「森から運んできてこの鮮度、……何使えばこうなる」
「まああなたになら教えて差し上げましょう。シリアルナンバー付きのあの袋を持っています。これでも宿で少し鮮度を落としてから持ってきました」
「……っかああ、あの袋ってまさかヨルム印の魔法袋か!俺も話に聞いたことしかねえよ」
「ふふ、現物は機会があればお見せしますね」
この人は話をしていて楽しそうだ。先生もお好きなタイプだろう。紅茶で口を潤し、カイリさんをまっすぐ見据える。
「……それで、先ほど仰っていた、ここでも鮮度を落として納品する、というのは?」
カイリさんがこちらを向き直った。
「……実はこの依頼、今年に入って三度目だ」
「三度目……でも、これからようやくスベリンゴは旬ですよね?」
「ああ。過去二回は説明した上で青い実を納めた。どうせあんたに隠しても意味がないから言っちまうが、依頼は割と新しい商会だ」
「未熟なまま?青い実のまま採ったとしても追熟はできませんよね?」
「もちろん。普通ならしなびる」
髪の中にいた精霊が、いつの間にかスベリンゴに乗ってつるつると遊んでいる。
……紅茶の味がしなくなってきた。
「青いままならカタラザルも襲いませんし採るのは楽でしょうけど……」
「ああそうだ、青いままじゃどうにもならなかったんだろう。そしてようやく旬が来た、張り切って納品依頼が来たわけよ、報酬は三倍」
「……そんな依頼、まともな冒険者は訝しんで手をつけないでしょう」
「当然だ。うちも冒険者を守る義務がある。表にゃ貼り出さねえ」
「ふふ、昨日受付のお姉さんがバックヤードへ飛んで行ったのは、このためでしたか」
「……まったく、あいつは顔に出るからなぁ」
カイリさんが頭をかいた。
「それで、どう見る?ミリィさんよ」
「そうですねぇ……これ、この鮮度で納品したらどうなると思います?」
「間違いなく冒険者と直接契約したがるだろうな」
「ですよね。カイリさん、目的はなんだと思います?」
「……俺に聞くのか」
「スベリンゴについて詳しいのは私よりもあなたですから。たとえばスベリンゴはブラフで、他に本命があるとか?」
紅茶を一口。精霊はツルツル遊びに飽きたのか、カイリさんの髪の毛をいじり始めた。
「……メルセオンは他所からいいとこ取りしかしない国だ。スベリンゴ以外に自慢できるもんなんて――軍事力くらいだ」
「確か武器は輸入頼みでしたよね?」
「ほぼ輸入だな。……となると狙いはスベリンゴを使った」
「自白剤」
声が揃った。やはりそうか。
「しかし自白剤はファルマ・ヴィータ社のものが主流でしょう。価格も安いですし」
「ファルマの自白剤は副作用がやばい。あれは初めから廃人にすること前提だろ」
ファルマ・ヴィータ社があるカイメル連邦は大企業で構成された、倫理観を捨てている国だ。世界中に流通する大型兵器の七割はカイメル連邦で生産されている。
「ファルマはスベリンゴを使った自白剤なんてとっくに解析済みなのでは?」
「だから流れてる先はファルマじゃない。……うちとおなじくらい軍事が強い国か、はたまた独裁国家か……」
独裁国家。
「……ファクトリア」
私の言葉にカイリさんがはっと顔を上げた。
「ファクトリア王国ならあり得るのでは?」
「ある!あそこはバイガエシ法典があるから」
「――犯した罪を正確に把握しなければ、倍以上の刑罰を課せない」
精度の高い、かつ廃人にしない自白剤を求める正当な理由がある。
「……しかしそれなら正式なルートで取引するべきだ。倍返しをふりかざす恐怖政治だが、国の方針、あり方としてあれはひとつの正解だろう」
「ええ。私も異を唱えるつもりはありません。実際あの国は、犯罪率が非常に低い」
「……依頼元の商会はかなり新しいところだ。ファクトリアについて正しく理解しているか怪しい」
「噂レベルで知っていたとしても、軽視しているかもしれませんね」
あれほど公正を謳う国に対して、違法ルートで物を売り込むことの恐ろしさを理解していないとは、商会としても致命的だ。
「……王城が把握してると思うか?」
「いいえ全く。独断専行でしょう」
「このまま突っ走らせたら戦争待ったなしだ。ファクトリアとやりあったらメルセオンは負ける」
「……そうですね、さて、どうするか……」
左手をあごに当て、考えを巡らす。
王家に伝えるにも今の私の立場では弱い。ソルヴィアンを通せば逆に王妃に私を処分する口実を与えかねない。
王妃以上に言いがかりをつける才能に長けた人を、私は知らない。
カイリさんの髪に絡まって遊んでいた精霊が、天井に向かって飛んでいくのが視界に入った。
「……?」
だれかいるー
「……!!」
ふよふよと飛ぶ精霊は、部屋の隅の天井のあたりでぴたりと止まった。
ここー
「……カイリさん、すみません」
「あん?」
椅子から立ち上がり、太ももに仕込んでいた投擲用ナイフを全ての指の間に挟み天井へ向かって投げる。ナイフがぐるりと天井の一部を囲むように刺さると同時に、ナイフの柄についていた魔石が光り魔方陣が起動した。
「ぐううぅっ……!!」
天井裏から、誰かがうめく声が聞こえる。
「えっ!?はっ!?」
「失礼しますね」
部屋の壁にかかっていた装飾品の槍で点検口をずらすと、槍を床につけてしならせ、勢いよく踏み切って天井裏へ上がった。
侵入者の方へ目を凝らす。
「……!あなたは……」
天井裏で目を回していたのは、ついさっき宿で爆睡をかましていた、ドミトリーの主だった。
*過去のアカツキ作品を読んでくださった方でピンと来られた方もいるかと思います、ヨルムはあいつです
*ファクトリア王国とバイガエシ法典については、短編「なぜ自分は裏切っても裏切られることはないと思ってるんでしょうね」に出てきます
*ファルマ・ヴィータおよびカイメル連邦についてもいくつかの既存作品で名前は出てきますが、忘れてても特に問題なく読めます、読めるはずです。
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本編連載中にランクイン、本当に嬉しいですありがとうございます……!
引き続きどうぞよろしくお願いします。




