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殿下の子飼いは無害なコリス  作者: アカツキユイ


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32 乗りかかった船

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

 ギルドの転移陣に着地すると、カイリさんが飛び込んできた。

「戻ったか!……やけに嬉しそうだな、お前」

「戻りました。いやぁ、久しぶりにヒリヒリする現場だったんで、血が騒いで」


 いけないいけない、たぶん今の私はかなりギラついている。

「ちょっと頭冷やします。あと、ブロウスさんを呼んでください。至急で」



 ブロウスさんはすぐに転移で来てくれた。

「大丈夫だったのか、ミリィ」

 紅茶を飲みながら答える。

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。

 それより、急ぎ共有させてください」



 スベリンゴは金のリンゴ。

 組み合わせ次第で何かが変わる。

 誰かしら捕えられていることはほぼ確実。

 捕えられた人たちは何かに利用されようとしている。

 騎士たちのすぐ近くにいるのに気付いていない。

 捕えられた人たちは周りがおっかないから震え上がっている。



「まずは捕えられた人がどこにいるのか。救出が最優先だと思います。心当たりは」

「やはり気になるのは『騎士たちの近く』『おっかないやつらが周りにいる』か」

「そうだな。騎士たちの近くということは、詰所や訓練所などの王城周辺の施設をさしている気はする」

「捜索はできそうですか」

「……するしかないだろう」

「お願いします。さすがに私もそこまでは入れないので」


 それにしてもあの男、随分と手慣れていた。


「侵入者がいるって確信がなくても魔法袋(マジックバッグ)に入れてしまえば始末できるから良いだろうっていう発想ですね、あれは」

「姿は見られなかったのか」

「認識阻害をかけていたので、大丈夫のはずです」


 倉庫にあった品物は多岐にわたっていた。多岐にわたりすぎていて、不自然なほどに。

 ……今はそこは、伏せておこうか。


 彼らは騎士団が踏み込んだ時には既に逃げていただろう。あれだけ大きな空間魔術を展開できる魔道具を持っているなら、転移も使えると考えるのが自然だ。


「あれは彼らだけでは難しいと思います。おそらく、協力者かパトロンが国内にいます。洗い出しが必要です」

「わかった、ありがとう……しかし規模が大きくなったら、今後の管轄は軍になる可能性があるな」


 ……軍。なるほど、軍か。


「ブロウスさん」

「なんだミリィ」

「軍部との関係は、良好ですか?」

「……どういうことだ」

「軍事クーデターなどを起こされる可能性は、ありませんか?」


「!!」

 ブロウスさんがハッと息を呑んだ。

 相手が私だからかもしれないけど、顔に出てしまうようではまだまだだ。



「……元帥は、王位を狙っている。

 そういう噂は、最近流れ始めた」


 メルセオンは軍事国家だ。国王の力が弱まっている今、王位簒奪を目論んでいても不思議ではない。


「そうですか」

 ヴァレーヌ宰相が傀儡王政を狙っていることを、ブロウスさんが知っているかはわからない。

 しかし……軍もやる気はあるようだ。噂を流して警戒心を高めて疲弊させ、ほとぼり冷めた頃に仕掛けてくる可能性もなくはないが、それをやる頃には私はこの国にはいないだろう。


 ややこしくなる前に、私はここらで引き上げた方が、良い。

 良いんだけど……良いんだけどね……?


 良いんだけどさぁ……



「乗り掛かった船、かぁ」



「お前がそれを言うと嫌な予感しかしない」

「何ですかそれ、失礼な。一応無害さを売りにしてるんですけどね?カイリさん」

「……冗談だろう?」

「ブロウスさんまで……もう、小リスですよ?小リス」


 ルイス殿下の肩にちょこんと乗る小リス、パブリックイメージはそれのはずなんだけどなあ……おかしい。


「今日の話、ヴァレーヌ閣下はどこまでご存知ですか」

「ミリィが単身乗り込んでいった話しかしていない。詳細説明前にカイリから緊急信号が来たと連絡があったから、閣下が即断で騎士団を派遣した」

「……なるほど、ありがとうございます。確認なんですが、先日の私の王城への入城記録はどのようになっていますか?」

「どのように、とは」

「ソルヴィアン王国の補佐官になっていますか?それとも、ただの冒険者、ですか」


「冒険者としてある。秘密裏にスベリンゴの継続捜査を頼むつもりでいた。公的な身分で記録を残しておくと何かあった時に面倒だからな」

「ありがとうございます。それならたぶん大丈夫でしょう」

「大丈夫、って、何がだ」

「多少派手に動いても」


 最低でもこの件が片付くまで、やはり私は王城へ出入りしない方が良い。ボンボン王太子と顔を合わせる機会がほぼなくなりそうで何よりだ。


「多少、じゃねえよ」

「嫌な予感しかしない……」



 窓の外に目をやる。――淡い紫が、夜闇の底に漂っている。

「今日は直接公爵邸に転移で戻ります。顔は見られていないはずですが、万が一街中を歩いて見つかってもまずいので」



 明日またギルドに行く約束をして、公爵家に転移で戻る。

 公爵家の転移箱に跳ぶ許可は閣下からいただいている。

 転移箱とは人が立ったまま入れる転移装置で、大型魔道具のひとつだ。

 中に入り転移先を設定すると、魔力量などにかかわらず誰でも転移することができる。ただし、転移時に多少の負荷がかかるので、病人や怪我人の搬送には向かない。


 急病人搬送用の転移箱はあるにはある……あるにはあるが、価格が小国の年間国家予算を超える。

 魔方陣を使って細心の注意を払って転移するのが、一番堅実だ。むしろ医師や治癒魔法士を転移で呼び寄せた方がよほど安上がりである。


「部屋に直接帰りたかったけど、こればかりは仕方ない」

 座標になる私物があるので、客間への直接転移はできる。なぜわざわざ転移箱に転移するかといえば、転移箱への転移は入館の記録が残るからだ。

 いや、事後申請でもたぶん平気だよ?平気だけど、色々面倒なの、申請とか。今は敵視してくる人もいるし。



 着地の瞬間、転移箱が大きく振動した。

「おお……お金かかってる」

 さすが公爵家、内装の魔石や貴石が大振り。


 しかしこの転移箱、着地の感じからすると少しガタが来てるなあ。丁寧に掃除されているから見た目はきれいなんだけど、メンテナンスはあまりしていないと見た。

「私も使う機会がまだありそうだし、調整させてもらおうかなあ……」


 この転移箱は閣下の執務室を出てすぐの場所に設置されている。

 箱の外に出て、外からまじまじと転移箱を眺める。外装も豪華!彫り込みがすごい。

 何より円柱型の転移箱はかなりの高級品なのだ。一般的には四角形や六角形、八角形の柱が多い。

 転移箱は家宝にしている家もあるくらいの貴重品だ。ヴァレーヌ家でも、代々大切に使っているのだろう。


 客間までは気配を消して、見つからないように歩き切った。

 ――まだ昂っているから、少しの挑発でも本気が出てしまいそうなのだ。

 パタリと客間の扉を閉じると、大きく息を吐く。

「生きるか死ぬかの場面はやっぱりゾクゾクしちゃうのよね」


 ぷはあ


 精霊が髪の毛からぴょこんと飛び出してきた。

「大丈夫?あの倉庫の空間魔術、あんまり質が良くなかったから消耗してない?」


 んーちょっとー


「だよね、お疲れ様。お風呂はどうする?それとも、休む?」


 ちょっとねるねーおかしよろしくぅ


「うん、探しておくね。おやすみなさい」


 まかろんろーん


 ふらふらと枕元にあるお気に入りの手巾の上へ飛んでいくと、またぽとんと落下した。

 以前、直接手巾に入らないのかと聞いたら、あそこで落ちるのが楽しいのだと言われた。詳しく聞いたら、どうやら転移の時に感じる内臓がふわりと浮かぶような気持ち悪さ、あれが良いらしい。


 ふと鏡を見ると、私の目が剣呑に光っていた。

「久しぶりにギラギラしちゃった」

 とりあえず汗を流してこよう。おそらく今なら公爵家の方々が食事を召し上がっているから、お風呂は空いているはず。


 ぱっぱとお風呂の支度をして浴場へ向かう。今日は徹底的に気配を消す。無になる。

 すれ違う人は少なく、すれ違う人も態度を変えない人たちばかりで助かった。

 気配を消しているから視線も合わないけど、見かけるだけでダメージは受けるものなのである。


 とっておきの日に使うと決めている石鹸でしっかりと全身を洗い、湯船へ。

「……ふぅ」


 ――生き返る。


 こういう日だからこそお風呂には入りたいのだ。

 緊張でこわばっていた身体がニットを解くようにするするほどけていく。まだ今日この後やらなければいけないこと、考えなければいけないことは腐るほどある、むしろここからが本番。睡眠時間もあまり取れないだろう。

 だからこそ、このリセットがめちゃくちゃ大事。


 目を閉じると、ゆったりとお湯に身を委ねた。少し意識が飛んで顔が湯船に入ってしまったけど、周りに誰もいなかったから問題なし!

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