30 それはお口も乱暴になります
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「商会に潜入したいので場所を教えてください」
ギルドに着き、ストレートに用件を告げると、カイリさんは大きなため息を吐いた。
「それは冒険者ではなくソルヴィアン王家の補佐官として、か」
「ギルドに迷惑はかけません」
「そういう問題じゃねえよ。……ここ数日、王立騎士団も商会を張ってる」
なるほど……かち合うか。
「どうしても、気になることがあるんです」
「何が気になる」
「珍しい品物を扱っている、ってことでしたよね?」
「ああ、それは間違いない」
「試用期間だけで終わってしまい本採用になかなかならないらしいという噂を聞きました」
「らしいな」
「生贄、もしくは共犯にできる人間を選別しているとしたら」
「……何のために?」
「戦争ですよ。もしくは無差別攻撃……テロともいうらしいですけど」
「おいおいおい、マジかよ」
「可能性です、あくまで。だから確かめたいんです。ひとまず偵察だけ」
「偵察だけで終わんねえだろ、お前」
「偵察だけ……で、終わるように頑張ります」
カイリさんの顔をチラッと見る。どう見ても納得していない。
「……えーと、最善を尽くします?」
「とってつけたような宣言やめろ。ったくしゃあねえな!俺から依頼してやる!行って来い!」
「……カイリさんからの依頼?」
思わぬ言葉に首を傾げると、カイリさんの声がワントーン下がった。
「……ここ数日、行方不明者が出てる」
「え?」
「うちを通さずに直接冒険者に依頼をかけ始めてるんだ。ほとんどの奴らが断るが、わけありが受けてるらしい」
「ええ?」
「この前牧場亭でお前が飲み比べしてぶっ潰した連中いるだろ。あれだ。他にもいるが」
「はあ!?」
なんだっけ、名前忘れたけど、牧場亭で私に絡んできたB級冒険者!
金に困って手を出したに違いない。
「これだからただドンチャンしたいだけのろくに味わわねえ酒飲みは嫌いなんだよ!!」
ミリィのおくちがらんぼうだー
「気持ちはわかる、俺もとりあえず一発殴りたい」
ですよねぇ……わかります。
「偵察だけなら助けるのは無理ですよ」
「当然だ。自業自得だから死んでも仕方ねえ、こっちの後味は悪いが」
「行方不明、人数は」
「冒険者は、五人だ」
「……冒険者は……?」
「一般人にも行方不明者がいて、ギルドに捜索依頼が来てる」
「初耳ですけど、それ」
もし一般人がいるとしたら、まるで話が変わってくるじゃないか。
「今話してる中で繋がったんだからしゃあねえだろ。普段より少し多いな、くらいの感覚だったんだ」
「……関連してるかはわかりませんよね」
「ああ。だから潜り込んで、そんな人いませんでした、商会とは無関係でした、って確認してもらえるならそれで良い」
そうでなかった場合にどこまでできるか……気を引き締める必要がありそうだ。
「……できる限りのことは、やります」
「頼む。ブロウスには連絡しとく」
「宰相閣下にも報告をお願いしてください。一般人がもしもいたなら、救出待ったなしなので」
立ち上がり、ぐるりと首を回す。そして肩も。
カイリさんの前でやるのは少しお行儀が悪かったか……殿下に叱られてしまうかな。
「……緊急信号出したら、いつでも入れるようにしといてください」
「わかった。無理すんなよ」
「善処します」
潜入前提なので初めから目立たない格好で来ている。認識阻害もかけて、気配も消して。
足取り軽やかに街道を歩き、一本脇道に入ると人通りはなくなった。しばらく歩くと、商会の建物が見えてくる。
後ろを振り返る。街道からは見える立地だな。
店頭で品物を並べて売るばかりが商会ではないのだ。こういう、ひっそりとした商会もある。ああ、もちろん健全なやつね。
「……騎士団が張ってるって言ってたけど」
いなーいねぇ
ああ、あれか。木陰で寝そべってたりする自由人っぽいやつ。武装してないとなると、いざという時に使えそうにないな。
「あまり期待はできなさそう」
ミリィのどくせんじょう!
「独擅場なんて難しい言葉、よく知ってるわね」
へっへっへ
変装魔道具でもある眼鏡を起動する。今は認識阻害を最大出力で使っているので変装機能はオフ。
スコープ機能を使って外壁に防犯魔道具がどれくらい取り付けられているか確認する。……うーん、結構厳重。数もそこそこ、センサー型もある。
「建物自体はそこまで大きくなさそうなんだけど……」
みてこよっかー?
「いえ、あなたは髪の毛の中にいて」
何があるかわからない。嫌な予感がするのだ。
おっけー
うんしょ、うんしょと言いながら精霊が髪の中に収まる。
認識阻害はちゃんとかかっている。じりじりと建物に近づくと、防犯魔道具の死角で軽く踏み切り、跳び上がった。屋根につかまりよじ登る。一階に窓がないというこの造りが既に怪しい香りしかしないのだ。
ミリィかっこいー
「助走距離が確保できればもっと高く跳べるんだけどね」
感知系の魔道具が厄介だ。認識阻害をかけていても、しっかり助走したら空気の動き――巻き込んだ落ち葉などからバレてしまう。
二階も窓は多くない。下で見つけていた薄く開いている窓から、先生特製の小型魔道具をねじ込む。
いまのなにー
「虫型の偵察魔道具」
イオルム様がリリス様から逃げていた頃に開発した、映像だけでなく音声も拾える無駄に高性能な監視魔道具である。
先生はこれでリリス様のことをずっと見ていたらしい。大変に女々しい。
ちなみにテントウムシ型だ。サンバか。ちゃんと結婚できて本当に良かったですよね、先生。
虫型偵察魔道具は初号機から基本的にテントウムシ型という設定なんですが、ここで「あーかあーおきいろのー♪」が出てくる人は少ないだろうなと思っています(自分も懐メロ好きではあるもののリアルタイムではないです……)




