19 ヤバいやつに見つかった
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本当に久しぶりの休日。
「というわけで、舐め腐った口をきかれたので軽く?きつめに?締めました」
朝一番にルイス殿下に報告をすると、殿下が深いため息を吐いた。
『ほどほどにするように』
「さじ加減は弁えているつもりです。失態は私の責任。殿下に咎が及ばないようにいたしますのでご心配なく」
『……そういうことではないんだが……というかまたお前は何食わぬ顔で人をたらし込んできたのか』
「たらし込む必要などありません。私は殿下のご寵愛さえいただければ、それで」
殿下が向こうで激しくむせたらしい。
『ミリィ……!!』
「ふふ。殿下、私の心はいつも貴方様のそばに」
『……まったく。
引き続き気を抜くな。学園なら定時報告もしやすかろう、朝昼夕方、晩に就寝前だ』
「ですから殿下、多過ぎます」
通信を終えると、遅い朝食を食べて外へ出た。
ミリィどこいくのー?
「学園通いになるから、宿を学園の近くに変えたいなと思って。王立学園って王城の方だから、ちょっと通学が大変じゃない?」
おふろあるとこがいいねー
「そうね、大浴場は無理でも、バスタブは死守したいわ」
と、思っていたのだが。
まさか養親たち所縁の商会で会うとは思わないだろう、半日前にお会いした宰相閣下に。
そして、まさかまさか宰相閣下……公爵家のお世話になるとは夢にも思わないだろう。
まったく、どうしてこうなった。
***
メルシエ商会メルセオン支店。
メルメルしているが、メルシエ商会の本店はユジヌ公国。メルセオン支店はあくまで支店である。
「やっぱり品揃えが違うわ……」
国はもちろん支店によって客層も変われば品揃えも変わる。
メルセオンの支店はどうやら市民階級がメインターゲットらしい。
手頃な日用品が多いが、少し良いもの、だいぶ良いものもしっかり在庫がある。
今回私が商会を訪れた理由。それは空になった魔石への魔力補充。
ハーグレイヴ伯爵家で色々仕掛けてきたので、すぐに使える手持ちの小さな魔石が尽きてしまったのだ。
入れ替えて抜いてきた空の魔石も、魔力を補充すれば使えるが、私は魔力が微弱なため補充ができない。
メルシエ商会では魔力の量り売りをしているので、買いに来たというわけだ。
補充箱に空の魔石とお金を入れ、お金を払った分だけ魔力が補充される仕組みになっている。
ちなみに、魔力の質によって価格は変わる。私は会員特価……いや、身内優待で、最上質の魔力を無料で補充できるのだ。ありがたい。
仕事で使っている道具たちは、故障や失敗が許されないため質にこだわる必要がある。当然、使う魔力も質の良いものがいい。
私は先生が創った魔道具の耐久性テストのモニターもしているので、どうしても魔石の消費が激しく、補充が欠かせないのである。
「すみません、魔力の補充なんですが」
レジのお姉さんに声をかけると、何を言ってるんだこいつ、という顔をされた。
ええ、ええ。わかっていますとも。お金は箱に入れるんですよね、知ってます。
あとは会員カードにあらかじめお金を入れて、カードをかざすと支払いができたりするんです。
新しい型の箱なら、私みたいな特別なタイプもかざすだけでオッケー。
ただ、古い型の場合はバックヤードで操作をしてもらう必要があるのです。だから声をかけているのだけれど。
……まあ、こんな特例は世界中に片手で収まるくらいしかいないので、知らないのも無理はない。
「こんなカード知らないんですけど、偽造ですか?支店長呼びますよ?」
「構いません。なんなら警察を呼んでいただいても結構です。本物ですから」
お姉さんのこの接客態度は客層の影響か、はたまた本人の資質か。いずれにしても褒められたものではないな。
そんなことを思いながら見ていると、動じない私が気に入らなかったのか、フンと鼻を鳴らしてカードを持ったままバックヤードに入って行った。
……ちなみにあのカードも先生が手を加えていて、切り刻んだりしようとすると全身が麻痺するようになっている。
先生、仕様が物騒です……。
しばらく店内でも見ているか、とお店の中を物色する。
魔道具の普及率はまだそこまで高くなさそうだ。だから多くの人は魔道具に詳しくないし、粗悪品をつかまされることも多いだろう。
「ハーグレイヴ邸にあったのも、ほんと最低限の機能しかなかったもんなぁ……中身、差し替えたし」
さしかえたのー?
「うん。粗悪品が多いっていうのは殿下がくださった資料にあったし。いくつかは持ってきていたから」
ミリィまたくちにでてるー
「ああ、本当だ」
周りにお客さんがいないから良いけれど、あまり話していると不審者だ。気をつけなくちゃ。
お土産用のスベリンゴ飴も売っている。効能はほとんどない、あってもおまじない程度に抑えられているものだろう。
と、バタバタバタバタと音がしてバックヤードからお姉さん、と、男性が一人出てきた。支店長だろうか、スーツを着ている。
「この人です!こんな怪しいカードを持って!」
珍しいイコール怪しい、とは限らないんですけどね。
お姉さんからカードを受け取った支店長らしき人の目がみるみる見開かれる。何かを言いかけて慌てて自分の口を手で覆った。
まるで氷の上を滑るような足取りで私のそばへ来ると、小声でこう言った。
「大変失礼をいたしました。奥でお待ちいただけますでしょうか」
「はい、構いません」
別室へ案内されることになるようだ。不満そうなお姉さんの横を通り過ぎ裏に入ると、お姉さんとは違う誰かの視線を感じた。支店長が接客していた上級顧客だろうか。
「こちらでお待ちください」
それなりに上等な別室に私を案内して、支店長は「少々失礼します」とすっ飛んで行った。
ほどなくして、会話が聞こえる。
「ちょっとパパ、なんであんな子を」
「本物だ」
「……え?」
「最上級のお客様!本部のご親族!」
「ええっ!?」
「……お詫びは私がするから、お前は表にいなさい」
……ヒソヒソと話していますが、丸聞こえです。何分、私は耳が良いもので。
国や支店によっては、メルシエ直営ではなく、提携先の商会が運営を担っている。
おそらくここも、その類だろう。
商会長には「問題がある店舗は報告して」と言われている。……最悪は契約解除だな、これ……。
支店長がなかなか戻って来ない。今日は予定を詰めていないけれど、お詫びはそこそこで良いから早く魔石に魔力の補充をして欲しい。
ミリィひまだねー
ぴょこぴょこ飛び回る精霊をつつきながら時間をつぶしていると、足音が近付いてきた。二人……いや、三人?
「ミリィ殿」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこにいたのはだらだらと汗を流した支店長と、半日前に冷や汗をたくさんかかせてしまったこの国の宰相閣下であるヴァレーヌ公爵。
そしてもう一人、ゆるくうねった淡いブロンドの髪に涼やかな青い瞳を持った、宰相閣下によく似た御令嬢だった。
「ヴァレーヌ宰相閣下、昨晩ぶりにお目にかかります」
立ち上がり礼をする。
「すまないねミリィ殿、先ほど案内されていくところが見えたものだから」
「初めましてミリィ様。リュシア=ヴァレーヌと申します。この度はアドリアン様が大変失礼を申し上げたと聞いております。申し訳ございませんでした」
こちらが王太子の婚約者である閣下の御息女か。なるほど、尻拭いには慣れていらっしゃるようだ。
お二人の後ろで、支店長が額から汗をとめどなく流している。完全にお詫びのタイミングを逃したそれである。お気の毒に。
「ご丁寧にありがとうございます。ミリィ=セスと申します」
礼をして顔を上げる……あれ、なんだろう。リュシア嬢の視線が私の顔を捉えて離さない。
五秒、十秒……。
困惑した私の顔を見た宰相閣下が、その視線の先に気付き「リュシア」と窘めた、が――視線は私から外れない。
「……何か、私の顔についておりますでしょうか?」
思わず尋ねると、リュシア嬢がぽっと頬を赤らめた。
「……?」
リュシア嬢はしばらくもじもじとした後、意を決したように顔を上げた。
「あっ、あの!!ミリィ様!」
「はい、何でしょうか」
「ミリィ様はリリス=セス女公爵とイオルム=ウルフェルグ王弟殿下ご夫妻に所縁のある方とお伺いしたのですが、本当ですか!!?」
……おおっと……そちらだったか。
『世紀の大恋愛』と言われるリリス様とイオルム殿下の恋物語のファン、通称『リリイオガチ勢』――。
これは面倒な人に見つかってしまった……。
リリス&イオルムは「お前よりも運命だ(おまうめ)」「君のために僕は人を捨てた(きみすて)」の主人公たちになります。時系列で言うとこのコリスよりも二十年以上前の物語です。
メルシエ商会はおまうめの第一部の主人公、ディアマンタの商会です。おまうめ時は次期商会長という立場でしたが、本作ではとっくに代替わりしてディアマンタが商会長をしており、リリスはディアマンタとまたいとこの関係にあたります。
この二作品はゆるゆると番外編を更新中ですので、よろしければ是非お読みいただけると幸いです。




