18 おいおい礼儀がなってねえな
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「アドリアン=メルセオン王太子殿下並びにヴァレーヌ宰相閣下。お初にお目にかかります。ミリィ=セスと申します」
王城に着いて案内されたのは、宰相閣下の執務室だった。人は最低限。王太子殿下と、宰相閣下、そしてブロウスさんと私。
「初めまして、ミリィ=セス嬢。なるほど、『ルイス=ソルヴィアンの小リス』の名前通りだな」
王太子殿下がアルカイックスマイルを向けてくださる。宰相閣下がそれに続いた。
「此度は貴重な情報の提供に感謝する。……しかし、随分幼く見える……いや失礼」
「民族の特徴として身長があまり伸びないのです。成人はしており、酒も嗜みます」
嗜むなんてレベルじゃないだろう、というブロウスさんの声が聞こえた気がするが、そのまま流しておく。昨日の話はカイリさんからしっかりブロウスさんにも流れているらしい。
「恐れながら、お呼びだていただいた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「……スベリンゴの不審な流通の件と、ハーグレイヴ伯爵家の件、貴殿が把握されている情報を全て買い受けたい。そして可能ならば、スベリンゴについては継続しての調査をお願いしたい。無論、対価は支払う」
宰相の言葉に、王太子殿下が涼しげな声で付け加えてきた。
「あと、僕の婚約者であるリュシア=ヴァレーヌの護衛を頼みたい。できるよね?」
この王太子、なかなか良い性格をなさっている。
「……その両立は不可能ではありませんか?」
少しつっけんどんに返してみる。
「四六時中つけとは言わないよ。そうだね、せめて学園の中で見ていてもらうというのはどうだろう。ハーグレイヴ嬢や、君が気にしていたセイランディアから来ている彼女も、まとめて監視できる」
なるほど、どうやらこのやんごとなきお方は大きな勘違いをなさっているようだ。
「私の任務は貴国内で起きている不審な動きを調べ本国に持ち帰ることです。問題の根本的な解決は私の領分ではございません。
ブロウス=マーセン殿と接点を持つに至ったのも偶然であり、私の意思ではありません」
「……手厳しいね」
「お褒めに与り光栄です」
私の主はただ一人だ。他の誰に与することもない。
「ですが、聡明な王太子殿下もご存知の通り、我が主は国内での立場を確立している最中。……手柄を持ち帰りたいのも確かでございます」
全てを見透かしたように、静かに微笑みかけてみせる。未来の王が小さく息を呑んだ。
「学園内での監視、拝命いたしましょう。しかし私の身体は一つしかございません。リュシア=ヴァレーヌ様には影をつけていらっしゃることと存じますので、有事の際の手柄はそちらにお譲りしたく。
あと、私は粗を見つけるのが何分得意でございまして、学園内の不正などを見つけてしまうこともあるやもしれません。王立学園内での不正、それを有耶無耶になさらないことをお約束いただけますでしょうか」
宰相とブロウスさんの表情が引きつっている。ブロウスさんには悪いが、ここでは一歩も引く気はない。
「……はは、とんでもないな。僕にも君のような腹心が見つかると思うかい」
「殿下が、国と民に対して常に真摯であられるならば、それも叶いましょう」
ミリィかっこいいー
精霊の絶賛は誰にも聞こえていない。私以外の誰にも。
舐め腐ってるボンボン王子の戯れに付き合っている時間はないのだ。
「ミリィ殿、さすがに不敬では」
ブロウスさんが口を挟んだ。
「これを不敬と捉える器しか持ち合わせていない方のお手伝いをする気はございません」
長い沈黙。
ただし、私は精霊による私への称賛を聞いていたので沈黙でもなんでもなかった。文字通り大絶賛だった。
よし、今晩こそはハンバーグをごちそうしよう。
「……ミリィ=セス殿。私の覚悟を問うてくれたこと、感謝する。貴殿には、主君のあるべき姿について教えを乞いたいと思う」
「恐れ多いお言葉でございます、アドリアン=メルセオン王太子殿下。殿下が白い太陽で在ろうと努められる限り、私も一切を惜しまないことをお約束いたしましょう」
その後、これからの動きについて少しお話をして、王太子殿下が退出された。
「ミリィ……この短時間で胃に穴が空くかと思ったぞ……」
ブロウスさんが胸の下をさすっている。
「あまり年端も変わらない小娘ですからね。だからと言って軽く御せると思われてはたまりませんので」
そう答えると、ブロウスさんの隣でずっと黙っていらした宰相閣下が口を開いた。
「ありがとうございます、ミリィ=セス殿。殿下は才覚には優れていらっしゃるのですが」
「ええ、少し人の心を試す悪い癖があられるようで」
「……その通りです」
「もう少し殿下を諌められる方をおそばに置かれたほうが良いのではないかと思いますね」
「厳しいな、ミリィ」
「メルセオンはまだ歴史の浅い国。王家への忠誠にもバラツキがありますよね。
あのまま王位に就かれたら……そうですね、私なら政変も視野に入れます」
ぴたりと宰相閣下、そしてその補佐の動きが止まった。
冷めてしまった紅茶を一口。
「……まあ、ソルヴィアンも決して安定した施政ができているわけではありませんので、話半分に聞いていただければ」
宰相が息を吐き、小さく笑みを浮かべた。
「私も貴女からたくさん学ばせていただこう。よろしくお願いします、ミリィ殿」
「こちらこそ、口ばかり立つ若輩者でございますので、何かお気付きの点があればご指摘ください。よろしくお願いいたします」
「腕も立つだろう……」
「何か仰いましたか?ブロウスさん」
「いや、何でもない」
「良い胃薬がありますので、後で差し上げますね。吐きそうになるほど不味いですが、吐きませんし大変よく効きます」
「……私も興味があるな、一包いただけるだろうか」
明日明後日は休日のため、学園には週明けから入ることになった。しかし宿から制服を着て通学するわけにはいかない。
私は職員を装って通勤し、学園内でその時々に応じた服装に着替えることになる。
また、スベリンゴと商会への調査も可能な限り進めるということでまとまった。これはブロウスさんだけでなく、カイリさんとも相談だ。
「もう少し殿下もお話に入っていただく予定だったんですが」
宰相閣下が申し訳なさそうに詫びてきた。
「仕方ありません。まさか舐めきっていた小娘にこてんぱんに伸されるだなんて、思ってもいらっしゃらなかったでしょうから」
「……本当に面目ない」
「こちらこそ、殿下へのフォローなどお手数をおかけいたします。私も、リュシア様とラヴィニア=リッジス様のご関係を聞くことができて良かったです。……しかしお話を聞く限り、マルセラ=ハーグレイヴ嬢の行動は、本当に本人の望む通りの結末を招きそうですね」
「そうなるな」
ブロウスさんがため息を吐いた。
「先ほど預かった記録魔道具、しっかりと精査させてもらう。ミリィの仕込みも邸へ捜索に入れば回収は容易だし、立件も可能だろう」
「よろしくお願いします。可能であれば、お子様二人……特にお坊ちゃまにはご恩情をかけていただけると、私も多少は報われます」
「……こればかりは善処するとしか言いようがないな」
「ええ、それで構いません」
この日は王城を後にした後、馬酔木で大きなハンバーグを精霊と二人で平らげた。
……牧場亭は昨日お酒をほぼ空にしてしまったので、臨時休業だったのだ。
初めてのワフウソース、美味しかったな。世界には美味しいものがまだまだたくさんある。
ミリィがんばったねー
「あなたもね。本当にありがとう。
……この休みは、森に帰ってみる?街は疲れるでしょう」
みんなついてきちゃうからだめー
「……ついてきちゃうかしら」
たのしいってばれたらみんなついてくるー
「ふふ、無理はしないでね」
ミリィおいしいのたくさんくれるからへいきー
この日は宿に帰って、バスタブにお湯を張った。
先生特製の入浴剤を入れて、しっかり疲労をお湯に溶かし、泥のように深い眠りについたのだった。
ごめんなさい殿下、報告は明日します……。
「おいおい礼儀がなってねえな」はミリィちゃんの心の声です。冒険者ギルド含めいろんな現場を回っているので言葉遣いのバリエーションは豊富です。
あと、ラヴィニア嬢はシリーズ内短編「茶葉と共に悪役令嬢を沈めてしまったようです」の主人公です!こちらもどうぞよろしくお願いします。




