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殿下の子飼いは無害なコリス  作者: アカツキユイ


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14 ちっくちくのぬめぬめ

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

「ちくちく、教えてくれてありがとうね」


 ちくちくがちっくちくだったー


「そう。……少し悪意を増幅させるタイプの魔道具だった。ずごごごって言っていたのは、魔力ね。 動力源としての魔石を持たない代わりに、着けている人間から魔力を奪っているの」


 うげー


「そう、うげー、よ。魔力を取られてイライラのもやもやに包まれていたら、それは周りにも当たりたくなるでしょう。

 あれと邸の中に仕掛けられているものを掛け合わせたら、不快感はすごいでしょうね」


 もやもやのちっくちくー


「ペンダント、干渉系の魔法がほとんど効かない私でも少し痛みを感じるくらいだったのに、あれをつけてなんともないのは、……もう、麻痺しているわね」


 ミリィをぐおおおーってねらってたー


「狙っていた?そんなに強くはなかったよね?」


 うんーだからーめっ!てしといたー


「めっ!ね。ありがとう」


 ここはやはり延長なしで切り上げよう。カイリさんとブロウスさんに連絡して次の足がかりを探した方がよさそうだ。商会に直に潜り込むか……スベリンゴをもう一度採りに行く?いやあ、この前より熟してるの多いだろうからカタラザルも激しそうだし骨が折れそう……。


「ああ、そうだ。今晩はカレイのソテーだそうなの。ムニエルじゃないわ」


 むにー!!むにむにー!!


 言葉は可愛らしいが最上級の抗議である。

 わかるわ……午前中から頑張ってもらったもんね……。


 おそらくソテーをムニエルだと言って出してもこの子は喜んで食べるだろう。しかし、精霊を騙してはいけない。常に真摯に誠実であること。


「だから家で作るわね。早めに上がりましょ。レバーもあると良いわね」


 ればー!!ぞうもつひゃっほー!!



 マルセラ嬢のお休みの支度のお手伝いが終わり、そそくさと退勤しよう……と、廊下を歩いていると、角から家令のジャコブが現れた。どうやら、待ち伏せされていたようだ。

「ミリィ」


「はい、お疲れ様でございます。本日の勤務を終えましたので失礼いたします」

 脇を何事もなく通り過ぎようとすると、手首をつかまれた。

「……何か御用でしょうか」


「お前、あちこち渡り歩きながら仕事をしているんだってな。どうせあちこちで男に媚びを売って都合悪くなるとトンズラしてるんだろう?」


 あ、これはナメクジのような……じっとりとした見た目そのままの最悪なやつだ、と直感する。


「そんなに仕事ができるんだからここに留まれ。俺が可愛がっ……!?」


 先の言葉を聞く必要はない。ジャコブの胸ポケットから万年筆を抜き取ると、キャップをつかまれた手で取りペン先をその首元に突きつけた。

「ひっ!!?」


「……私があちこち転々としている理由?私の命はあなたのような穢らわしい者たちに捧げるものではないからですよ。

 お陰様でこの三日、大変に爛れていることをこの目で確認しましたので、予定通り明後日でお暇を頂戴いたします」


 万年筆を引いて、キャップをすると何事もなくジャコブの胸ポケットに収める。

「……」

「あまり目立つことはなさらない方が良いと思いますよ?奥様は大変嫉妬深くいらっしゃいますでしょう?」


 二歩ほど距離を取り、スカートの裾を払う。

「それでは、失礼いたします」

 静かに歩き出し、そして角を曲がったところで一気に速度を上げる。そのまま女性使用人の控え室まで一気に通り抜けた。


 いやー無理無理無理!!なめくじ!!ぬめー!!


 語彙が精霊レベルまで退行してしまったけど仕方ない!無理!!

 手洗い場に駆け込んで、つかまれた手首を石鹸で入念に洗う。あの場で手首を切り落とさなかった自分を大いに褒めてやりたい。


「……絶対お風呂、行く……」

 手巾で手を拭きながら長く大きなため息をついた。


 私に欲を持って触れて良いのは一人だけ。

 私を死の淵から救い出してくれた、ただ一人だけだ。



 ***



 ぬめぬめだったねー


「本当にね、あの気持ち悪さを出す人間に久しぶりに会ったわ……」


 食料品店に寄ると、ぴかぴかの白身魚の切り身が取り置きされていた。

 牛レバーが残っていたが、これは鮮度がお気に召さなかったらしい。

 鶏レバーとモツときんかんのワイン煮に興味を示したのでこれを買い、切り身と合わせて後で取りに来るからと取り置きを頼んだ。あとビールも。



 そこから公衆浴場に一直線。

 この前買ったリンゴの石鹸で全身をいつもより入念に洗い、原初の海へ身を委ねる。


「……っはああああ……」

 思ったより大きな声が出たらしい、数人こちらを見たけれど知ったこっちゃない。生理的嫌悪で死にそうだったのだ。これでようやく生き返る。


 なかなかハードだった上に、最後の最後に泥を塗りつけられたような一日だった。最低。

「あと二日、どうなるかしら……」

 可能な限り目立たない。斡旋所には延長しないと伝えなくちゃ。延長なしの前提で話はしてあるつもりだけれど、こればかりはわからない。しれっと勝手に延長を了承してしまうところもあるからだ。


 時間がない中で心ゆくまでお湯を堪能すると、果実水をボトルに詰めて、再び食料品店へ。切り身と煮込み、ビールも忘れずに引き取り、宿へ帰る。


 今日はまだ早いから、部屋で晩酌しながら通信をする余裕もあるだろう。……殿下と飲みながら話すのかって?時間がない時はそうしている。お酒を堪能したいので極力避けているが、どうしようもない時はある。どうしても話しておかなければならない時、そして、どうしても飲まなければやっていられない時。


 今日は、後者だ。

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