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交差する傷  作者: 輝久実


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遥の目撃

その夜、残業を終えて帰路についていた遥は、偶然、駅前の高級ホテルで駿作の姿を目撃した。

駿作は、いかにも裕福そうな中年の女性と、ホテルのロビーにある高級バーから出てきたところだった。駿作は常に一歩引いた距離を保ち、女性の話を完璧な笑顔で聞いている。スマートで、隙がない。

しかし、エントランスを出て女性がタクシーに乗り込む瞬間、駿作の表情が一変した。

彼は女性に別れの挨拶をするため、体を傾けた次の瞬間、笑みが完全に消え去った。その瞳は、まるでゴミを見るような冷たさを帯びていた。女性が去った後、彼はスーツの袖を払い、憎しみを滲ませた顔で、静かにため息をついた。

(彼は、今…あの女性を憎んでいた)

遥は、彼が女性を「遊んで捨てる」という噂が、本当の意味でどういうことなのかを理解した。彼はただ楽しんでいるのではない。彼の**『遊び』は、まるで誰かへの復讐**のように、冷徹で計算されていた。

遥は、あの朝、彼が自分に向けた「裏切られた」ような冷たい視線と、今見た「女性への憎しみ」が、根っこの部分で繋がっていることを直感した。

男性に対する恐怖と嫌悪感を抱く遥だったが、この時、彼の孤独な行動の裏側に、自分と同じ傷があるような気がして、初めて駿作に対して恐怖とは違う感情(哀れみ、あるいは共感)を抱いたのだった。

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