AIRPORT ONE SHOT : 『 METAL MAN 』
スーパーヒーローとは_?
鋼の鎧をまとい、知恵と技術で戦う男。
己の身体ひとつで街を駆け、弱ぎ者を守ろうとする若者。
そして、揺るぎない信念を掲げ、盾を手に人々を導く兵士。
私たちはそんな姿を、 漫画や映画の中で幾度となく目にしてきた。
だが、 それは遠い物語の中の存在なのだろうか?
この世界に、 スーパーヒーローはいないと誰が言い切れるだろう。
これはそんなヒーローに憧れた"ある男"の物語。彼は管制官でも、バイロットでもない。しかし、誰にも知られぬ場所で自らの手に"力"を築き上げていた。
朝の東京モノレールはラッシュの乗客でぎゅうぎゅう詰めだった。牛嶋涼は無言で人混みに揺られながら、イヤホンで音楽を聴いていた。窓の外には秋晴れの空と湾岸の風景が流れ、ガラス越しに朝の光が差し込んでいる。誰もが忙しそうにスマホを操作する中で、牛嶋はただリズムに身を任せ、静かに職場へ向かっていた。やがて「新整備場駅」に到着し、彼はイヤホンを外してホームに降り立った。
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羽田空港の整備場に冷たい風が吹き込み、エプロンに並ぶ航空機の機体は白い息を吐くように静かに待機していた。牛嶋は濃紺の作業服に身を包み、胸元のジッパーを少し開けて風を避けるようにして立っている。整備士たちは同じように作業服の胸元を合わせながら集まり、朝のミーティングが始まる。
「牛嶋!」
鋭い声が飛んだ。上司の萩原が、整備士たちを見回しながら牛嶋涼を睨む。
「昨日の作業記録、記入漏れがあったぞ。お前は毎回細かいところで抜けがあるんだ。ほんとMIT出が聞いて呆れるよ。」
牛嶋は軽く眉を動かしたが、何も言わずに視線を落とした。
「……すみません。」
周囲から小さな笑い声が起きた。背後で誰かがひそひそと話している。
「また怒られてるよ。」
「MITだかなんだか知らないけど、日本じゃ大したことねえな。」
「おい聞いたか? アメリカじゃIntelに内定決まってたのに取り消されたんだってよ。それで日本に戻ってきたらしいぜ。」
「マジかよ、やっぱどっか抜けてんだな。」
牛嶋の耳には届いていた。だが彼はあえて何も反応しなかった。黙々と軍手をはめ直し、前を向く。
萩原が最後に一喝する。
「とにかく気を引き締めろ。次はないぞ!」
「はい。」
牛嶋の短い返事でミーティングは締めくくられ、整備士たちは持ち場へ散っていった。
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牛嶋は無言のまま、指定された格納庫に向かった。そこでは旅客機のエンジン整備が待っていた。巨大なエンジンのカウルを開き、内部に潜り込むと、冷えた金属の匂いと油のにおいが鼻を刺す。
「……さて、と。」
作業リストを確認しながら、バルブの交換に取りかかる。古い部品を外し、新品を取り付ける。だが、その途中で、彼の指が一瞬だけ止まる。小さな部品の一部をそっと作業袋に滑り込ませた。
背後から同僚の声が飛ぶ。
「牛嶋、そっち大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。もうすぐ終わります。」
淡々と答える声はいつも通り。だが、その胸の内には秘密の鼓動が走っていた。
今日もまた、誰にも気づかれずに部品を“収集”することに成功したのだ。
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夕方、牛嶋は再び新整備場駅からモノレールに乗り込んだ。疲れた顔でつり革に掴まっていると、向こう側の座席に見覚えのある人物が座っていた。
「……内田さん?」
声をかけると、航空管制官の内田翔平が顔を上げた。
「おう、牛嶋じゃないか。久しぶりだな。」
「ほんとに。ここで会うとは思いませんでした。」
二人は自然と笑い合う。内田は牛嶋より一回り上だが、なぜか気が合うところがあり、時々飲みに行ったりする仲だった。
「そういえば、3週間前のサウスアジア航空の緊急着陸……あれ、内田さんも対応にあたってたんですよね?」
「よく知ってるな。あれは大変だったよ。」
牛嶋は小さく頷き、窓の外を見やった。
「俺も現場を見ました。炎上した機体から乗客が避難してくるのを……あんな光景、初めて見ました。」
内田は表情を引き締めた。
「……だよな。まあ、無事に済んでよかったけどな。」
モノレールはやがて浜松町駅に到着した。二人は並んでホームに降り立つ。
「せっかくだし一杯どうだ?」
内田が笑いながら誘う。
牛嶋は一瞬迷ったが、すぐに首を横に振った。
「すみません、ちょっと用があって……また今度お願いします。」
「そっか。じゃあ近いうちにな。」
牛嶋は軽く手を振り、足早に改札を抜けていった。その背中を見送りながら、内田は小さく息をついた。
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その後、牛嶋は自宅のガレージに戻った。厳重に施錠された鍵を開けて中に入ると、暗闇の中でカチリと電気を点ける。瞬間、複数のモニターが青白く光り、ガラクタや工具、航空機部品の残骸が散らばる異様な空間が姿を現す。
壁際には組みかけの外骨格スーツ。その横でパソコンが自動的に起動し、スクリーンに文字が浮かぶ。
『おかえりなさい。今日も帰りは遅かったですね。』
AI――“RYN(Reactive Yield Network)”が、合成音声で牛嶋に語りかけた。牛嶋は椅子に腰を下ろし、ニヤリと笑う。
「ただいま、RYN。……さあ、続きを始めるか。」
牛嶋は今日くすねてきた部品を机に置くと、手際よく工具を取り出し、スーツのフレームに組み込み始めた。RYNの声がモニター越しに響く。
『いよいよ、これで完成ですね。』
「……ああ。何度もテストしたからな、これなら行ける。」
牛嶋は無我夢中で作業を進める。スピーカーからは重低音の効いたEDMが流れ、ガレージはまるで別世界のような熱気に包まれた。
やがて、最後のパーツを組み上げる。牛嶋は机の引き出しから小型の円筒状の装置を取り出した。それは青白い光を放つ“コアアーク”。
「MITの時に作った俺の集大成だ……卒論で提出した。」
RYNが声を響かせる。
『そうでしたね。しかし当時の教授が真っ赤になって“無理だ”って断言したんですよね。最低評価のお墨付きまでもらって。』
「おい、やめろよ……。」
牛嶋は苦笑しながら頭をかいた。
「まあ、あのとき悔しかったけど、今は最高の証明になる。」
牛嶋はそのコアアークをスーツの胸部に装着する。瞬間、低い駆動音とともに外骨格全体がわずかに振動し、モニターの警告灯が一斉に緑に変わった。
アーマースーツは鈍い銀色の外装で覆われ、航空機用素材のカーボンとチタンを組み合わせた装甲は頑強かつ軽量。肩には小型のスラスター、腕部には整備用ツールを転用した多機能ユニット、脚部には油圧シリンダーが組み込まれ、まるで工業機械と軍用機の融合体だった。ヘルメットのバイザーにはHUDが投影され、暗闇でも鮮明に視界を確保できる。
「……完成だ。」
RYNが軽く冗談めかして囁く。
『最低評価の産物が、今やアーマースーツを動かす心臓部です。』
その時、モニターの一つが赤く点滅した。警察無線を傍受していたRYNが自動で解析を始める。
『傍受していた警察無線から情報です。大井ふ頭で指定暴力団“龍崎組”が、中国マフィアとの麻薬取引を行うとの通報が入りました。』
牛嶋は眉をひそめ、スーツの胸部を軽く叩いた。
「……ようやく出番か。」
RYNが応じる。
『現場までは車で20分。アーマースーツの稼働テストには最適かもしれませんね。』
牛嶋は深呼吸をした。
「準備だ。」
牛嶋はゆっくりとアーマースーツの前に立った。まず脚部の装甲が油圧音を響かせながら自動で閉じ、銀色の外装が彼の足を覆う。次に腕部ユニットが金属音と共に固定され、内部で配線が接続される。胸部のプレートが閉じると、コアアークが眩い光を放ち、青白い鼓動を繰り返した。背中にスラスターが装着されると、低い振動音がガレージ全体を震わせる。最後に頭部のヘルメットがカチリと閉まり、バイザー越しにHUDが一斉に展開、無数の情報が視界を覆った。
牛嶋の呼吸が荒くなり、EDMのビートと重なるように心臓が高鳴る。
「行くぞ。」
METAL MAN
TO BE CONTINUED.




