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第20話 中山君はきんぴらごぼうが好き

 

 突然ですが、良いことというのは重なることが稀にあります。


『これは……肉巻きおにぎり』


 今日がその日だと、重箱に所狭しと並んだ大好物達を見て確信しました。

 朝の一件から時は流れ、現在は昼休み。

 夏瀬君の義妹さんが今日も今日とてとんでもない高さのお弁当箱を持ってこられました。

 当たり前のことですが、そんな量のお弁当を夏瀬君一人で食べ切ることは不可能です。

 そのため、夏瀬君は私達《クラスメイト達》によくお裾分けをして(協力を仰いで)います。

 義妹さんの作る料理はどれも美味しいのでいつも楽しみにしていたのですが、今日はたまたま私の大好きな肉巻きおにぎりを発見してしまったのです。

 普段は男子達が過ぎ去った後の余り物を頂戴するのですが、今日ばかりは絶対に食べたかった私は男子達の間を縫って二つ確保することに成功。

 ホクホク気分で美琴ちゃん達のいる席へ向かおうとしたところで、ふと彼女達が購買に飲み物と紙皿を買いに行ったのを思い出しました。


(二人が帰ってくるまで自分の席で待ってましょう)


 それに加えて、義妹さんのお美味しい料理を一つでも多く手に入れようと男子達が動き回っていたのもあり私は一旦自分の席に戻りました。

 

『ゴクリ』


 椅子に座ってすぐ、目の前から香る甘い良い匂い思わず喉が鳴らしてしまいました。

 そして、気が付けば私の手は箸を掴んでいました。

 分かってはいるんです。

 どうせ食べるのなら美琴ちゃん達と一緒に食べて感想を言い合った方がいいことくらい。

 ですが、育ち盛りな身体は美味しい食事を求めてしまって。


『……いただきます』

 

 誘惑に抗えきれなかった私は、小さく合唱し肉巻きおにぎりを頬張りました。


『……美味しい!』


 食べた瞬間にタレの甘味と強烈な肉の旨みが口いっぱいに広がって、あまりの衝撃に私は思わず感嘆の声を上げました。

 今まで食べたどの肉巻きおにぎりよりも美味しい。

 でも、さらに驚くべきは材料自体は高級なものを使っている感じはなくスーパーなどであること。

 どうにか家で再現出来ないものかと思った私は何を使われているのか探るため、さらにもう一口食べました。


「凄い。本当にこの肉巻きおにぎりタレが凄く美味しい。ふぁむ……なるほど。この甘さは隠し味にハチミツを使ってるんですね。中山君も一つどうですか?」


 味を意識したことで、夏瀬君の義妹さんがプロレベルで料理が上手いことを私は再確認。

 こんなものを毎日食べられているということにテンションが上がった私は、この幸福を分かち合いたくて隣に座っている中山君に声を掛けました。


『いや、俺は遠慮しとく』


 ですが、結果は残念なことに振られてしまいました。

 個人的には絶対食べた方が良いと思うのですが、私のそんな熱い視線に中山君が気がつくことはなく。

 友人達の方を呆れたような目で眺めながら、中山君はお弁当のご飯を食べ進めていくのでした。

 全く興味を示さない中山君に疑問を持った私は、彼のことを観察してとある結論が出ました。

 

(もしかして、中山君の食べているお弁当の方が美味しいのでしょうか?)


 これなら中山君が全く欲しがらないのにも理由がつきます。

 私はすぐに中山君が持っているお弁当に目を向けました。

 中身の内容は白米、ハンバーグ、ほうれん草のごまず和え、ネギ入りの卵焼き、ミニコロッケ。

 至って普通のお弁当でしたが、先程食べた肉巻きおにぎりより美味しいのかと思うと大変魅力的に見えてしまって。

 ついつい中山君が食べている姿に目を奪われてしまいました。

 それから彼の箸が動くのを無言で眺めていると、ある時に箸の挙動が変化しました。

 右から左へ。

 左から右へ。

 中山君の口に向かうことなく空を駆け回り初めたのです。

 最初の方は何も思わなかったのですが、だんだんと何故食べないのかという疑念が湧き上がってきて、耐えきれなくなった私はそこでようやく中山君の顔を向きました。

 すると、中山君の黒い瞳には私の姿がハッキリと映っていて。


(ッ〜!?)


 そこでようやく自分がとんでもない醜態を晒していたことに私は気が付き、身体が一瞬で沸騰しました。


『あっ!その、これは違くて!?ただ、中山君が夏瀬さんの料理を何で欲しがらないのかと思ってその理由を探っていただけで。別に食べてみたいとかそんなこと思ってませんから!』

『くっ!?』


 私は慌てて弁明しましたが、中山君はそっぽを向き肩を震わせ出して完全に手遅れどころかますます墓穴を掘ってしまう結果となりました。

 私の馬鹿。

 アホ。

 まぬけ。

 あまりの恥ずかしさに私が頭を抱えていると、不意に中山君が『……そんなに言うなら食う?もう半分あるし』と提案をしてきました。

 思わず、私はいいんですか!?と返事をしそうになりました。


『ッ!いえ、それは中山君の貴重なお昼ご飯ですから貰うのは忍びないです』


 ですが、私はすぐに中山君のお弁当は夏瀬さんの物と比べて圧倒的に少なかったのを思い出し、首を横に振ります。

 

『じゃあ、田中さんのお弁当に入っているやつと交換するってのはどうだ?』

『そ、そうですか?なら、お言葉に甘えて』


 しかし、中山君は少し強引に押してきて、結局私は彼の好意に甘えることとなりました。


『お好きなのをどうぞ』

『じゃあ、からあ──じゃなくて、たまごや──でもなくて────きんぴらごぼうで』

『はい、どうぞ』


 私がお弁当を差し出すと中山君はよほど迷っていたのか箸が何度も行き先を変え、最終的にハンバーグとは不釣り合いなきんぴらごぼうを持っていきました。


(もしかして、中山君はあっさりしたものが好きなのでしょうか?男の子って皆んな脂っこいものが好きなわけじゃないんですね)

 

 私は頭の中でそんなことを考えながら、中山君のお弁当からハンバーグを拝借し口に入れました。


『う〜〜ん!おいふぃでふ!』


 結論から言わせて頂くと中山君のお家のハンバーグは絶品でした。

 口の中に入れた瞬間にホロッと崩れて、お肉の甘味が口内を満たされて最高です。

 夏瀬さんの料理と同様にお店に出てもおかしくないレベルではありますが、中山君の料理はカフェに出てくるようなどこかほっとするような優しさがあって私の好みに合っていました。


(こんな複雑で美味しいものを手作りで作ってるなんて中山君のお母さんは凄いですね。それに比べて私はあんな簡単なきんぴらごぼうしか──あっ!?)


 ハンバーグに舌鼓を打っていたところで、私は中山君の手に渡ったのがお母さんの美味しいおかずではなく、自分が作ったというものだということを思い出しました。

 こんな美味しい料理の対価に未熟な私が作ったモノなど釣り合わない。

 不味いと思われるかもしれない。

 嫌だ。

 怖い。

 そう思った私は急いで別の物と交換してもらうべく、中山君の方を向くと運の悪いことに丁度彼が私の料理を口に入れるところでした。


(あぁ、食べないでください!?)


 そんな私の心の声が届くことはなく、無慈悲に中山君の口は閉じられて。

 彼はモゴモゴと口を動かします。

 時間にして約一秒。

 ですが、私からすればもっと長く感じられて。

 思わず耳を塞がうとしたところで、中山君の口から『うまっ』という感嘆の声が上がりました。

 その瞬間、先程まで感じていた不安が一気に無くなり、胸の奥からとてつもない歓喜の感情が湧き上がりました。

 だって、中山君が美味しいと認めたということは少なくとも夏瀬さん(お姫様)や中山君のお母さんにも負けていないということだから。

 その事実がたまらなく嬉しくて。


『……やった』


 思わず、私は中山君に見えないよう後ろを向き歓喜のガッツポーズを取るのでした。


 


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