パートナーマッチ
俊という名前の青年は会社から帰宅し家のベッドに横たわる。
「ふう、疲れた」
そう大きなため息をつくとスマホを取り出しニュースを見始めた。そのニュース内容はAIによる危険性の記事だ。今後AIがもっと進化すると社会に危険と混乱が生じるという内容だった。
(なんか未来やばそうだな)
青年はちょっと不安に思ったが何十年も未来先のことなのでまだ安心と思いホッとした。
そして動画を見始めた。会社から帰ってきてはスマホで動画を観るのが習慣になっていた。
「何かおもしろい動画ないかな」
「おっ、これおもしろそう」
そう言いながら動画を開くと再生前にとある広告が流れる。
「パートナーが欲しいならこのアプリ、パートナーマッチ!高確率でマッチング成立!ダウンロードはここから!」
それを観た青年はこう思った。
(マッチングアプリか…そういえば友達もこれで彼女できたって言っていたな)
(ちょっとマッチングアプリが気になっていたんだよな、どういうものなのか)
青年はそのマッチングアプリをダウンロードしてやってみようとしたが勇気が出ずそのまま広告は終わってしまった。
だが数十分後、またあの広告が流れ出す。
「またさっきのアプリの広告かよ、しつこいな」
「これは俺にマッチングアプリやれというのか、まあ気になってはいたけど…」
そして青年はパートナーマッチというアプリをダウンロードをすることを決意した。
「とりあえずダウンロードしておいて気が向いたらやってみよう」
数日後、青年はマッチングアプリで彼女ができた友人と喫茶店で会うことになった。
そして友人に気になっていたマッチングについて聞いたのだ。
「そういえば俺、マッチングアプリを始めようと思うんだよね」
「そうか!いいんじゃないか、やってみればいいよ」
「ただマッチングアプリにちょっと抵抗があって…ああいう出会い系サイトみたいものってイメージ悪くてさ、本当にやっていいのかなって思っているんだよね」
「いや大丈夫だよ、マッチングアプリはちゃんとした企業が運営していてサクラとかもあんまりいないしね」
「ふーん」
「それに今の若い人は大体マッチングアプリで出会っているよ、俺もそうだけど」
「そうかみんなやっているのか、じゃあ俺もやってみるか」
青年は友人の勧めもあり前にダウンロードしていたマッチングアプリをやることにしたのだ。
それから青年は家でマッチングアプリを立ち上げ少し緊張しながらプロフィールや写真を登録しパートナー探しが始まった。
「なるほど、こんな感じなのか」
アプリには一人一人の写真がズラリと並びスクロールするとどんどんいろんな人の写真が出てくる。
「とりあえず何十人かいいね押してみるか」
次の日、会社から帰るとマッチングアプリ開くと二人の女性とマッチングをした。そし自分自身にいいねをくれた人も三人いたのだ。
青年はいいねをくれた三人もいいねを返し合計五人の女性とマッチングしたのだ。
「へえ、意外とマッチングするもんだな」
そしてマッチングした五人にあいさつ程度のメッセージ送り今日は寝た。
また次の日、昨日と同じように会社から帰るとマッチングアプリを開いた。そしたら四人の女性からメッセージが返ってきたが一人の女性は返って来なかった。
「何で、この一人の女性はメッセージが返ってこないんだ」
不思議に思いネットで調べると相手がたくさんのメッセージを貰っている場合、返信しきれてないことや本命となる男性が他にできたことなどの可能性が書かれていた。
「なるほど、そういう場合があるのか」」
そして返信が返ってきた四人の女性にはまたメッセージを送った。
数日後、青年はまたマッチングアプリをしているがメッセージのやり取りしている女性はあれから二人減った。
「これで残ったのはあと二人か…」
メッセージのやり取りが無くなってしまった二人の女性とは趣味が合わずに会話が続かなかったためか青年がメッセージを送って以降返信はなくなった。
だがまだやり取りが続いている二人とは会話が進みメッセージが続いている。
「以外と楽しい」
けれど青年は疑問に思っていたことがあった。
「何でこんな自分の相手をしてくれているのだろう」
「しかもかわいいし」
一度も異性に振り向いてもらうこともなく告白もされていなかった青年はそう思う所があった。
そして青年はこの前会った友人とまた喫茶店で会うことになった。
「どうよ、マッチングアプリは?」
「楽しいね、だけど…」
青年は前に疑問に思ったことを話した。
「これって仲良くなってから何かの勧誘とかしてくる感じじゃないの?」」
「まあ違うんじゃない、俊みたいにモテなくても相手してくれる異性が少なからずはいたという話だろ」
「そうなのか?」
「逆に全人類の女性が俊のことを全く興味ないって話だとさすがにおかしいだろ」
「探したら少なからず気が合う相手がいたということだよ」
「そうかもな」
それからも二人とはメッセージの続き仲も縮まっていき何かの勧誘をしてくるということは今の所なかった。
そして今度、詩織という女性と会う約束をした。
会う約束の日、青年は駅で詩織を待っていた。
(こんなに緊張するのは会社の面接以来だな)
やがて青年の方に一人の女性がやってきた。
「あの、俊さんですか?
「はい、そうです」
「はじめまして、詩織です」
簡単な挨拶をした後、ちょっとその付近を散歩することになった。
「今日熱いですよね、よかったら飲み物上げますよ」
そう青年が言うとカバンから冷えている麦茶のペットボトルを取り出した。
「いえ、お構いなく」
「そうですか」
その後、数時間散歩した後、ご飯に行くことになり青年と詩織はレストランに入った。
「何頼もうかな?詩織さんは何食べます?」
「私はちょっと食欲無いので食べなくて大丈夫です」
「そうですか、でも飲物は頼んだらどうですか?外暑かったですから」
「いえ、喉乾いてないので大丈夫です」
「そうですか」
青年はそう言われてこう思っていた。
(さっきまで熱い中散歩して喉が乾かないって本当に水分取らなくて大丈夫なのか、まあ本人が大丈夫って言うなら大丈夫か)
「そういえば俊さんは映画好きでしたよね、普段どういうのを観るのですか?」
「俺は…」
その後、青年と詩織は会話が映画などの話などで全く途切れることもなく続いた。
そして数時間が過ぎまた会おうという約束をして別れた。
「マッチングアプリ、本当に楽しい」
そして青年はもう一人メッセージのやり取りしていた凛という女性に会おうというメッセージを送ったが次の日、返事が来ておりで仕事が忙しくて会えないと書かれていた。
それから何回か会おうという誘いをしたがいつも何等かの理由で断られていたことに青年はこう思っていた。
「怪しい」
(もしかして凛という女性は本当は存在しなくて男がいたずらで女性になりすましているとか)
だが凛という女からこういうメッセージが送られてきたのだ。
「あのよかったら今度ビデオ通話しませんか?」
(ビデオ通話はしていいのか…じゃあ、なりすましの可能性はないのか?)
青年は今度ビデオ通話しましょうという返事を送った。
そしてビデオ通話を約束した日…
「どうも凛です、よろしくね」
「こちらこそ」
凛と初めてビデオ通話した青年はこう思っていた。
(この凛さんという人、嘘偽りのない女性じゃん)
青年のなりすましじゃないかという予想は見事に外れた。
そしてお互いお酒を飲みながら世間話や共通の趣味の話などをして盛り上がった。
数時間後…
「じゃあ、また話そうね」
「そうですね、今度はビデオ通話じゃなくて実際に会いませんか?」
「ごめん、ちょっと仕事が忙しくて会えそうにないんだよね」
「それならいつなら会えそうですか?」
「今の所まだわからないな」
「そうですか、わかったら教えてください」
「わかった」
そして凛とのビデオ通話は終わった。
(やっぱり断られたか、何でだろう?)
(なりすましじゃないことはわかったけどな…もしかして凛さんが言っていたとおり本当に忙しくて会えないのか?)
青年は何故なのか本当にわからず頭が混乱した。
ある日、休みの日に青年は街を歩いていたら一人の男に声を掛けられた。
「もしかして俊か?」
「ああ、健吾か、ひさしぶり」
声を掛けてきた男は高校時代の友人の健吾だった。
そして青年は健吾と食事を取ることになりレストランに入り席に座ると健吾はこう言ってきた。
「健吾は最近どうしているんだ?」
「俺は官僚として働いているよ」
「へえ、すごいな、エリートだな」
「俊はどうしているんだ?」
「俺は工場で働いているよ」
「ふーん、そうなんだ」
「あと最近マッチングアプリ始めてさ」
青年は健吾にマッチングアプリを始めたきっかけや今二人の女性とやりとりをしていることを話した。
「それでさ…」
青年は実際に会ってくれない凛のことも話すと健吾は何かを知っていそうな顔をしたのだ。
そして健吾はこう言った。
「それについては知っていることがある」
「知っているって何を?」
「知りたい?」
「もちろん」
青年はそう言うと健吾にとある所に案内され建物の地下へ行くと扉がありそこのセキュリティロックを解除すると扉が開く。
その扉の先には巨大なコンピュータがあったのだ。
「健吾、これは一体何だ?」
「これはAIが文章や画像などを生成しているコンピュータだよ」
「それとあのことと何の関係が?」
そして健吾は青年にこう話し始めた。
「何年か前に政府でAIの危険性について話し合いが行われ本当にAIに危険性があるのかの実験が行われた」
「その実験とは本物と間違うぐらいの偽物の画像や動画などをAIに作らせそれを人間が本物か偽物かを区別できるかという内容だった」
「今回は架空の人物をたくさんAIに作らせマッチングアプリに登録させた」
そして青年は健吾にこう言った。
「えっ、それじゃあ凛という女性は本当存在しないということ?」
「そういうことだな」
「でも写真やメッセージも本物の人間ぽかったしビデオ通話までしたけど今の技術であそこまではできないじゃないの?」
それについて健吾はこう反論した。
「世にこの技術を出していないだけでもうできている」
「なんで世に出さないのさ?」
「そりゃ、こんな高性能のAIを世に出したらどうなるかわからないからさ、もしかしたら社会にとって危険や混乱が生じるかもしれないからね」
「だから政府主導の元、実験が行われたんだ」
それを聞いた青年はこう言った。
「だから凛は実際に会おうとしてくれなかったのか」
「そう、本当は実在しないからね」
「それで俊は凛という女性は本物の人間だと思っていたの?」
「もちろん、全くAIだと気づかなかったな」
そして健吾はこう話した。
「それで例えばこの高性能のAIで企業の偉い人の偽のスキャンダルの動画や画像を流したら人々はこれは偽だと気づかず意図的に会社の信用を落とすことが可能だろうね」
「だから今後は、高性能のAIが世に出回ったらこの情報は偽物か本物かを見極める能力が必要だと思うな」
そして青年は健吾と別れ家に帰り家のお風呂でこう思っていた。
「凛さんが本当は実在しないのはショックだな」
それとあの時観たAIの危険性のニュースの記事について思いだした。
青年はAIで社会が危険や混乱が生じるのが意外と近い未来あるかもしれないと思うとちょっと不安になってきたのだ。
そして風呂から上がるとマッチングアプリにメッセージが着ていた。
「あ、詩織さんからだ」
メッセージによるとまた会って話したいということだった。
青年は返信をしてまた会おうということをメッセージで送った。
それから詩織さんと会う約束の日…
青年は待ち合わせ所で待っていると詩織がやってきた。
「お待たせしました」
「いえ全然」
青年と詩織は前と同じくレストランで食事をすることになりレストランに着くと二人は席に座った。
「詩織さんは何食べます?」
「いや、私は今は食欲がないので食べなくて大丈夫です」
「そうですか、でも飲物は頼んだらどうですか?」
「いえ、喉乾いてないので大丈夫です」
「そうですか」
この時、青年はこう思っていた。
(そういえば前もレストランに行った時も詩織さん何も食べてなかったな、あまり食べない人なのかな)
そう疑問に思いながら自分の注文をしたのだ。
その後はいろんなことの話をして会話が弾んだ。
数時間後、レストランから出ていき散歩した。
「詩織さん、本当に何も食べなくて大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「それならいいんですけど」
そして二人は信号を渡っていたら右の方から猛スピードで来る車が一台やってきた。
やがてその車はスピード落とさず信号を渡っていた詩織の方へぶつかり吹き飛ばされた。
「詩織さん!」
そう言いながら青年は詩織の方へ駆け寄るとあるもの目にした。
「金属…?コード…?」
それは車の事故によって詩織の体から金属やコードが飛び出ていたのだ。
それを見た青年はこう思った。
「人間じゃない…もしかしてロボット…」
そして点と点が繋がることを思いだした。
(そういえば詩織さん、今日や前の時にレストランで食べたり飲んだりしなかったのって…)
(でも外見とか動きは人間にしか見えなかったんだけどな…)
そして青年はこれからもっと技術が発展して行く時代、どれが嘘か本当かなんて見極めることはできないだろう思っていたのだ…