日常:序章 その日々は尊く、その均衡は危うく
「いらっしゃいませ!こちらの席へどうぞ!」
「おいバイト!注文取りに行け!」
「はい!ただいま!」
俺のバイト人生は特に問題が起こるでもなく順調に進んでいた。
「はい。ハンバーググリルとミートドリアですね。かしこまりました。少々お待ち下さい」
噛まれた腕の傷は癒え、噛みちぎられた足ももう治った。今の仕事には支障はない。
「おまたせしました!ごゆっくりどうぞ!」
だが、こうして忙しく働いていても頭の片隅にはいつもあのことがある。
ふとした時に思い出して俺の身体を後悔、自責、罪悪感という呪いで蝕んでいく。
「お疲れ!紅瑠くん!」
「お疲れ様です、先輩」
バイト終わり、自分の罪に苦しめられながら重い手付きで帰り支度をしていたとき、バイトの先輩の宮乃に声をかけられた。
宮乃は人当たりもよく、その整った顔立ちと女性の魅力が溢れている体でバイトの男連中と男性客の視線と好意を一身に集めていた。
「キミ、いつも表情暗いぞ〜?どうしたの?」
「いえ……」
まさか人を殺しましたなんて言えるわけもなく、お茶を濁すので精一杯だった。
この先輩は他の先輩たちよりも何故か俺に構う。好意を寄せられているなんて思い上がったことは言わないが、理由がずっとわからない。
「今日空いてる?ちょっと付き合ってよ」
「え?……すみません……」
ファミレスのマドンナに誘われたことで一瞬ドキッとしたが、すぐになにか裏があるんじゃないかという考えと自分を苛む呪いの影響で気持ちが重くなり反射的に断ってしまった。
「そっか。また今度付き合いなさい。おつかれさま!」
「お疲れ様です」
更衣室に消えていく先輩の後ろ姿を見つめながら、俺も帰路へついた。
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主人公はゾンビを倒すことにここまで悩まないで、もっとダークファンタジー感を出そうと思っていたんですが……想像していた作風とは違うものが出来上がってしまったという裏話っぽい何かがあったりします。
不定期投稿ですが、次回も読んでくださると嬉しいです。