日常:終章Ⅲ ”彼”の正体
「また無理したようだね」
「……別に無理なんて……」
「僕は医者だよ。それに、君よりも長く生きてる。表情で何となく分かるよ」
「先生……僕、ゾンビを……人を殺しました。それに……人間をゾンビにしました。自分の意志で」
「僕には君の気持ちをほんとうの意味で理解することはできない。法だって正当防衛で君を裁けない。そうだろう?」
「……」
「だから僕の例を話すけどね。僕だって医者だ。救えなかった人もいる。当然遺族には恨まれたし、心だって折れそうになったさ。でも、僕は医者だ。人を救うために迷っている暇なんてない。救えなかった分、救う。それがせめてもの罪滅ぼしさ。今だってその時のことは思い出す。でも、やらないといけない」
「……乗り越え方は人それぞれだ。正当防衛だからと自分を正当化せずにそうやって命について悩むことができるのは正しいことだと僕は思う」
「……」
「傷心しているところ悪いが、聞きたいことがあるんだ」
「薬のこと、ですか?」
「ああ」
「注射器に、入ってました」
「色は?」
「透明です」
「他の特徴は?匂いとか」
「わかりません……。でも、打たれた人はすぐにゾンビになっていました。学校に現れたゾンビと同じでウイルスが変異したものかもしれません」
「その変異という考察はなかなか的をいていると思うよ。こちらでも……」
「先生、危険なことはしないでください」
「ありがとう」
とある街角の小さな病院で紅瑠璃紅とその院長(といってもこの病院に医者は一人しかいない)が話し合っていた。
院長の病院は璃紅が生まれた場所でもあった。
璃紅の亡き両親の思いの強さを出産を手伝って(院長は男なので直接ではないが)身をもって感じた院長はこの病院を客も少ないし、医者なんて本当はいないほうがいいと言いながら璃紅の居場所として病院を使わせてくれている。
璃紅はひとしきり院長と話すと家に帰っていった。そんな璃紅を見送りながら院長は璃紅が生まれたときの検診の結果を思い出す。
―――――紅瑠璃紅。
・紅瑠瑠璃(母)紅瑠紅義(父)の間に生まれる。
・健康状態、異常なし。
・特記事項……母親が身籠っている状態でゾンビウイルスに感染。その後出産。血液検査の結果ゾンビウイルスの影響を受けていることが判明。研究の結果、ゾンビと共通する遺伝子を確認。以後ゾンビ遺伝子と呼称。ゾンビ遺伝子の発生原因については不明。妊娠時の母親に関係するものと思われる。患者、紅瑠璃紅はゾンビ遺伝子によってゾンビウイルスに強い体制を有している。以後、研究、調査を続ける。
この診断書は院長が厳重に保管しており、何も問題がない診断書をダミーとして一般的な保管方法で保管している。
「彼は……これからどうなるんだろうな」
院長は一人呟いた。
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